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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
煌炎36
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貼りつけた笑みを消さないまま、少年は首を横に振った。正直に言うと、人にぶつかったり転んだりしたときにちょっとした怪我くらいはしていたのだが、日常的な痛みに慣れていた彼にとっては、その程度ならば痛みとして認識するほどのものでもなかった。それよりも、眼帯が安定しない状態で他人と一緒にいることの方が嫌だった。とにかく早く帰って、ひとりになって、安心したいのだ。
だというのに、目の前の男は容赦なく会話を続ける。
「そうか、それは良かった。いや、さすがにあのときは私も肝が冷えたぞ。無事で何よりだ」
「それは、ご面倒をお掛けしました」
男の言っていることが全く判らなかった少年だが、男の言葉から察するにどうやら責められているようだ。そう判断した彼は、取り敢えず謝罪しておくことにした。こういう理不尽な怒りにも慣れている。こんなときは、逆らわずに大人しく謝って置いた方が、幾分かマシな展開になるものだ。
だが、目の前の男は少年の反応に少しだけ困ったような顔をした。
「いや、別に責めたい訳ではないのだ。酷く心配したというだけの話で」
「そうなんですね。ありがとうございます」
自然と紡がれた感謝の言葉は、やはり取り敢えず口にしたものだった。相変わらずこちらの本心を見透かしてくるような男だ。この男に対する苦手意識は、どうしたって拭えるものではなかった。
「別に感謝をして貰いたい訳でもないから、そう無理に礼を言わずとも良い」
やたらと優しい微笑みを浮かべた男が、手を伸ばしてくる。少年がその手を見つめて反射的に身構えたことに気づいたかどうかは判らないが、男は特に動きを止めることなく、少年の頭に触れてきた。そしてそのまま、柔らかく撫でられる。
(急に一体なんだっていうんだろう……)
これまで少年にそんなに興味を持っていなかったように見えた男の態度が急変したのだ。少年がそう思うのも当然である。
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