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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
デート?21
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(王宮庭園でのときも目くらましを剥ごうとしてきたようだったが、つくづく嫌がらせが得意なタイプだな。こんなことならば、薄紅まで出向いてランファ殿に幻惑魔法を掛けて貰うべきだったか)
思ったところで今更だ。現状、己で対処する以外の方法はないのだから、細かい魔法は不得意だのなんだとの言っている訳にもいかない。そう判断した男は、歩みを止めぬまま口を開いた。
「砂の落ちるひと欠片 風の乙女の衣もて ありとあらゆる音を断ち 僅かな揺らぎも抑えたまえ ――|沈黙の風《サイレント》」
詠唱を終えた瞬間、砂時計の砂が欠片ほど落ちるくらいの間、瞬き三度あるかないかの時間。男の周囲の音が、止んだ。
比喩ではない。男の周囲の空気が震動を止めたのだ。全くの無音の世界で、上空に向かい、男は大きく口を開けた。空気の振動を極限まで抑えた空間で内容を聴き取ることは不可能だったが、何ごとかを叫んだのだ。
その音無き叫びが終わった直後、魔法の効力が切れる。同時に、無音だった男の周囲に衣擦れや吐息の音が蘇った。ふう、とひと息ついた彼は、目論見通りのことをやってのけた割には、浮いた表情ではなかった。
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