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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
狙われた店主2
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声が聞こえる。
ああ、この怒声はあの人のだ。だって『僕』に言葉をかける存在なんて、あの人くらいしかいない。それがたとえ怒りに染まったものだとしても、そこにいると認められていることは、嬉しかった。ないものとして扱われるよりは、ずっとマシだった。『僕』の世界は小さく、自分とあの人だけしかいなかったから。
ああ、でも。
その願いが大それたものだとしても。
罵声でも怒声でも悲鳴でも狂気でもなく、愛されてみたかったのだ。
他でもない、世界の全てである、母親に。
「――ぉ、かぁ……」
呟きかけたところで、はたと気づく。違う。だって、もうおかあさんはいない。何処にもいなくなってしまったのだ。だって、そう。おかあさんはあのとき、ぼくが、この手で、
ばしゃん、と頭から冷水を掛けられた感覚に、ふと瞼を押し上げる。うっすら開けた視界に、投げ出された自身の脚と石造りの床が見えた。震えがくるほどに酷い寒さは、底冷えのする部屋で冷水をぶちまけられたせいだろう。だが、寝起きのぼんやりとした頭は、寒さのせいで急激に冴えていった。
そうだ。あのとき帰り道で頭を殴られて意識を失って、気づいたらここに繋がれていたのだ。
窓ひとつない石牢のような部屋。そこに囚われてから、どれほどの時間が経っただろうか。手脚に嵌まっている金属製の枷は重く、身じろぐ度に鎖が擦れる音がして不快だ。確かさっきまで散々殴打されていたから、そのせいで一時的に意識が飛んでいたのだろう。
ようやく自分の身に何が起こったのかを思い出した少年に、声が掛かる。
「おう、起きたか坊や」
良くない声だ。
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