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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
狙われた店主3
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声の方へと視線を上げれば、気絶する前に居た男とは別の男が、にっこりと微笑んでいた。一見優しげにも見える表情と声音で、おかえり、と言われたが、少年には判った。表面的に取り繕おうが、これは気絶する前の男よりも危険な相手だ。自身に向けられる悪意に嫌というほど慣れ親しんできた少年にとって、それを察知するのは容易なことであった。
対面している相手の薄灰の瞳に張り付く嗜虐の色に、少年はとことん嫌な気分になった。こういう手合いはタチが悪いと、経験上知っているのだ。つまり、先程よりも状況は悪化しているということである。
しかし、何故こんなことになってしまったのだろう。不幸というものは常に理不尽で、時間も場所も理由も選ばず急に降りかかる事象であるとはいえ、今回のことは身に覚えがなさ過ぎる。
あのとき貰った服なんてタンスの奥底にしまったっきりだから、裕福そうな見た目はしていないし、寧ろどちらかといえばみすぼらしい方だ。唯一、安心感が気に入って着けている蝶の眼帯だけは分不相応に高級なものではあるのだろうけれど、ぱっと見て目立つものではない。誘拐するだけの価値なんてないのに、どうしてよりにもよって自分を狙ったのだろうか。相手がよほど間抜けだったか、なんでも良いから痛めつける相手が欲しかったのか。
この部屋に連れてこられてすぐはそんなことを考えたものだが、暴力の合間合間に寄越される問い掛けは、明確な目的を以て少年を捕らえたのだということを嫌というほどに教えてくれた。
「ん? ちゃんと起きてるか? おーい」
内側に向いていた意識を外へ向ければ、灰色の瞳が思っていたよりも近くにあって、思わずのけ反りそうになる。すんでのところで堪えたのは、今まで培ってきた危機に対する判断力のおかげだろう。こういう手合いは、反応すればする程に喜ぶのだ。
だから少年は、ただ視線を向けるだけに留めた。見ず知らずの他人にパーソナルスペースを侵されるのは酷く気分が悪いが、努めて表情を無に取り繕う。笑顔を作る方が慣れているが、ここで下手に笑みを浮かべても相手を煽るだけだ。
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