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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
狙われた店主6
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「殺すなんてとんでもない。彼の監視は怠らなかったが、残念なことにこの子以外に密に連絡を取っている相手なんていなかった。つまり、替えがきかないってことさ。だから、全て吐かせるまで殺してはいけないよ。いいね」
そう言った声にも、聞き覚えがあった。耳に馴染む穏やかな音。ついこの間、あの人に連れていかれた庭園で、これと同じ声を、確かに。そうだ、名は、
デイガー・エインツ・リーヒェン。
少し離れた場所で少年を眺めていたのは、不明瞭な男が通っている裏カジノのオーナーだった。
なんだって裏カジノのオーナーという立場の人間が、あの男に執着しているのだろうか。ぼんやりとそんなことを思う少年だったが、恐らくはデイガーのものだろう足音が近づいて来るのに気がついて、のろのろと顔を上げた。そうして視界に映った人間に、少年は身体を固くした。今までの比ではないくらいに、ぞわりと背筋が泡立ち、鳥肌が立つ。
良くない、ではない。これは危険だ。
その判断は正しかった。少年が自らの警戒レベルを最大限に引き上げると同時に脚に焼けるような痛みが走り、彼は細い喉から引き攣った悲鳴を洩らした。殴られるだとか蹴られるだとか、そういう類の暴力ならばここまで声を上げることなどない。それくらいならば慣れているし、悲鳴を上げるほど相手を煽ると知っているからだ。だが、この痛みは違う。
何が起きたのかきちんと整理しきれていないまま痛みの方に目をやれば、大振りのナイフが腿に深く刺さっていた。柄を握る手の持ち主、デイガーに突き立てられたのだ、と認識しきる前に、肉に埋まったナイフを無遠慮に捻じられ、また悲鳴が上がる。
「太い血管は避けて刺したから、そんなに叫ばなくても大丈夫だよ、君。ほら、きちんと座って、顔を上げなさい」
幼い子供に言い聞かせるような優しい笑みを浮かべたデイガーが、少年の髪を掴んで身体を起こさせる。そのまま無理矢理床に座らされた反動でナイフが深くを抉り、少年は喉を引き攣らせた。その表情に、先程までは窺えていた冷静さはもうない。少年は今、己が紛れもなく被食者であることを認識したのだ。
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