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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
狙われた店主9
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否定の言葉をそれ以上を紡ぐことは、許されなかった。再び水面に顔を叩きつけられて、意識が飛びかけるまで酸素を絞り取られる。それが終わったと思ったら問い掛けが投げられ、あとはもうただの繰り返しだ。疲弊しきって気絶しようものなら、腿の傷口をぐちぐちと掻き混ぜられて覚醒を促され、そしてまた酸素を奪われる。
一体どれだけの間、そうされていたのだろうか。時間の感覚なんてとっくになくなっていて、少年はもうずっと何日もここにいるような気すらしていた。
いよいよ虚ろになってきた目に、デイガーは忌々しげに息を吐いた。そこで彼は、ふと思いついたように、少年の顔に手を伸ばす。ぼんやりとその指先の行方を追っていた少年は、それが向かう先に己の右目があることに気づいて、反射的にびくりと肩を跳ねさせた。跳ねさせてしまった。
もう反応を返す気力すらなくなったかのように思えた少年の顕著なそれに、デイガーは一瞬止まった後、にっこりと微笑んだ。
「そんなにここは嫌なのかな?」
右目を覆い隠す眼帯に指先が触れ、少年は反射的に逃げようと身を捩った。だが、いつの間にか後ろに回っていた別の男に押さえこまれてしまう。
(そこは、いやだ)
少年の顔に浮かぶ明確な恐怖と拒絶を見て取ったのだろうデイガーが、するりするりと眼帯を撫でる。
「そういえば君、ずっと眼帯をしているけれど、こちらの目はどうなっているんだい? もしかして、お顔を隠さなくてはいけないような酷い傷でもあるのかな? ……片目だけそんな状態だなんて、可哀相に。とても可哀相だから、」
デイガーの指が眼帯のベルトにかかり、少年が息を飲む。
「左目も、同じようにしてあげようか?」
ベルトにかかる指に力が籠もるのを感じて、少年は目を大きく見開いた。
まって、とうまく回らない舌が言う。
「ま、まって、いやだ、やだ、いやだ、やだ、そこは、そこはいやださわらないで、やだ、やだ、やだやだやだやだやだ……!!」
気力を振り絞るように大きくなる懇願の声に、しかしデイガーはただ微笑みを返すだけで。
パチンとベルトが外れる音がどこか遠くで聞こえた気がして、そしてとうとう、少年の右の瞳は光に晒されてしまう。
それは少年にとって忌まわしい瞳だ。この世の何よりも汚くておぞましい、化け物の瞳だ。だっておかあさんはこの目が嫌いだと言った。お前なんて産まれてこなければ良かったと言った。そうだ。全部この目が、違う、全部、
全部、ぼくが悪いんだ。
石造りの冷たい部屋に、引き絞った弓のように張り詰めた悲痛な叫びが響き渡った。
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