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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
原初の大魔法6
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逃げ場などないとでも言うかのようにドラゴンの全身を覆い尽くした炎が、次いでみるみる内に球体のような形になって僅かに縮み、そして、中心から全方位に向かって大きく弾け爆発する寸前、
突如、炎の塊の真上から水の大瀑布が降り注いだ。落ちていく水は、王の炎に勝るとも劣らない威力を以て、炎を覆い尽くしていく。だが、王の炎がそれに掻き消されることはなかった。炎の極限魔法の真骨頂である大爆発こそ未遂に終わったものの、鎮火される様子のない炎は中心のドラゴンを焼きながら、水の壁をも食い破らんと激しく燃え、水はそれを仕留めようと更にその質量を増していく。炎と水のせめぎ合いにより、竜の悲鳴を掻き消してじゅうじゅうと水が蒸発する音が響き、周囲には熱を孕んだ水蒸気がもうもうと立ち込めた。
火と水のぶつかり合いが続いたのは、どれほどだっただろうか。不意に眉根を寄せた王がさっと右腕を振るのと同時に、王の身体から迸っていた魔力が徐々に収まっていき、同時に水に覆われた炎もその勢いを徐々に弱めていった。それに数拍遅れて、炎を覆っていた水までもが急速に炎への拘束を緩める。そして徐々に薄く広がっていった水は、小さな音を立てて小刻みに弾け、つかの間の雨となって首都に降り注いだのであった。
未だ水蒸気の霧がうっすらと覆う空を見つめ、雨に濡れた王が呟く。
「……逃がしたか」
王の視線の先、徐々に薄れていく霧の向こうには、漆黒の竜の姿もデイガーの姿もなかった。
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