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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
国王の招待4
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「それでは帰ろうか。長居して誰かに見つかっては大変だからな」
「え、ちょっ、帰るって何処へ!?」
僕の家はここなんですけれど、と思った少年が慌てて言えば、王はきょとんとした顔をした。
「何処って、グランデル王城に決まっているだろう? ははは、キョウヤはときどき抜けているな。いや、そういうところも大変愛らしい」
王の指先が少年の暗い紫の髪を掬い上げ、そこに唇が落とされる。
(ひ、ひぇっ)
「風霊、キョウヤの家の戸締りと火の元その他の処理を頼んだぞ」
王の命を受け、風霊が内側から窓と鍵を閉め、灯りを落としていく。そして、少年が何かを言う前に、王獣は空を駆け出してしまった。
(た、高いし速い……!)
あのときはそれどころでなかったからそこまでの恐怖心はなかったが、こうして改めて王獣の背に乗ると、その高度と速度に背筋がぞわぞわとしてくる。落ちるのが怖くてほとんど無意識に王の胸に縋れば、何を思ったのか王は少年を片腕で抱き締めて髪にキスを落としてきた。
(ひぇぇぇ)
帰りたい。とても帰りたい。
心の底からそう思った少年は、勇気を出して国王陛下に進言しようと決意した。こうしている間にも、王獣はどんどん赤の王国へと進んでしまうのだ。帰して貰うのならば早い方が良い。というか、そもそもどうしてこうなったのだろうか。
「あ、あの、僕、なんでグランデル王国に行くのでしょうか?」
背後の王を振り返って見上げれば、彼はやはりきょとんとした顔をした。
「うん? 私の生誕祭があるからだろう?」
駄目だ、会話が成立しない。だが、だからといってここで諦める訳にはいかないのだ。
「えっと、貴方の生誕祭があるのは知っているんですが、どうして僕がグランデル王国に行くのでしょうか?」
「私を祝ってくれるのだろう?」
これはもう諦めても良いのではないだろうか。そんな考えが一瞬だけ頭を過ぎった少年だったが、もう少しだけ頑張ることにする。
「ええと、なんで僕が貴方の、」
生誕を祝うのでしょうか、と続く筈の言葉が紡がれることはなかった。何故なら、見上げた王がとても幸せそうな微笑みを浮かべていたのだ。
きらきら、ぱちぱち。金色の瞳の中で、炎が揺れて煌めいている。こんな、この世の何よりも美しいものを見せられてしまったら、もう少年は頷くしかないではないか。
「…………はい」
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