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第1章 かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
エピローグ10
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「…………ぼく、」
小さな声が、少年の口から零れ落ちる。しかしそれは、明確な意思を持って紡がれた音だ。
「……ぼく、まだ、あなたのことを、すきかどうか、わからない、」
言いながら、少年は葛藤する。絶対にこれは間違っている。間違っていると知っている。けれど、こんなにも言葉を尽くしてくれたこの人から逃げるなんて、そんなことはできなかった。したくなかった。
それはきっと、少年が必死に掻き集めた、一握りにも満たない勇気だった。
「…………けど、でも、ちゃんと、こたえをだせるように、がんばり、ます……」
今はまだ自分の気持ちなんて判らない。どれだけ待たせてしまうかも判らない。だからせめて、精一杯自分の言葉で、この人が産まれたことを祝うことができたなら。
新たな年と王の生誕を祝う鐘の音と歓声が、窓の外で輝いている。その輝きに比べれば、少年のそれなど本当に小さなものだろう。だが、この王はそれをこそ欲しいと言うのだ。ならば、少年は勇気を振り絞る。この人を好きかどうかなんて知らなかったが、この人に応えることは、とても大切なことのような気がしたから。
「……お誕生日、おめでとう、貴方」
泣き笑いのような下手くそな笑みを浮かべた少年がそう言った瞬間、王の瞳が一層の輝きを増し、赤銅の髪が毛先からきらきらと光を放った。少年はそれに見覚えがある。今は毛先だけだが、あの時は長髪の全てが光り輝いていた。
一体この人は何者なんだろう。
そんな考えが一瞬脳裏を過ぎった少年だったが、目の前の王の美しさに、そんなことはもうどうでも良くなってしまう。ただ、王の金の瞳を見つめ、中に孕む炎を見つめ、こう思うのだ。
ああ、本当に、この人は、
「…………きれい……」
甘く蕩けるような声を受けて、王がふわりと微笑む。ただ一人、王だけをその目に映す少年の頬をゆるりと撫でて、そして彼は、極上の幸福のひと欠片を零すように、愛しさに満ち満ちた音を紡ぐのだ。
「ああ、私も、お前を愛しているよ」
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