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ミハイル学園②
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着替えて寮の外に出る頃には、そこらは既に登校中の生徒で溢れていた。
エスカレーター式で進学しているこの学園だから、勿論生徒同士の顔は皆周知しているようである。噂には聞いていたけれど、編入生である自分の顔を皆がジロジロと見ながら耳打ちしているのを見て、改めてその噂が真実なのであると納得した。
程なくして、これから入る予定のクラスの担任と職員室で対面することとなった。
校内地図を見ながら職員室に辿り着くと、扉をノックしようとした瞬間にガラガラと音を立てて扉が開いた。
「すみません、誰かいるとは思わなくて…ああ!もしかして君、編入生の…」
「あ、はい…。」
「私が担任の斎藤です。ちょうど良かった、迎えに行こうと思ってたんです。よろしければ、このまま一緒に教室へ向かいましょう。」
この学園だからなのか、担任の斎藤という男も随分品がいいように感じる。何から何までもが、ここは普通ではないのだろう。
斎藤はこちらの緊張を心配しているのか、教室に着くまでの間鬱陶しいくらいにこやかに話しかけ続けた。心配しなくても緊張などしていないし、コミュニケーションの取り方もよく分かっていない。
半分話を無視しながら長い廊下を歩き続け、ようやく目的の教室へ到着した。
「君はここで待っていてください。私がどうぞと言ったら中に入って、自己紹介をしてくださいね。」
そう言うと、斎藤は教室の中に入り扉を閉めた。優しいながらもやけに明るいハキハキとした声で、朝のホームルームが始まる。今日は転校生が来ているという一声で、教室内はやけに盛り上がっているようであった。
男子校なのだから女が転校してくる訳でもないのに、こうも盛り上がれるものなのだろうか。余程編入生がやって来るのは珍しいイベントなのだろう。
「それじゃあ転校生をお呼びしますね。どうぞ。」
盛り上がっている分そこに入っていくのには随分勇気がいる。自分は誰とも馴れ合うつもりは無いし、特に派手な見た目でもない。身長は低いし、顔立ちだって整っている訳では無いから平々凡々である。皆が興ざめする事を予想すると、変に期待されると面倒くさいという考えが先に頭を過ぎった。
重い足取りで下を向きながら教室の中に入る。教室に足を踏み入れた瞬間に、先程まで騒がしかった教室が急に静まり返っていくのが分かった。
「それじゃあ、自己紹介をお願いしますね。」
「…小笠原 唯です、よろしく。」
「…それだけですか?ええと…小笠原くんに、何か質問のある人はいませんか?」
名前を言うだけで済ませたかったから早く終わらせたのに、斎藤が余計なことを言い始めた。ただでさえ憂鬱な気持ちだというのに、いい迷惑だ。
しばらくすると、自分とは相容れなさそうなタイプの生徒が挙手もせず口々に質問を投げかけてきた。
「どこの学校から来たの?」
「小笠原くん、聞かれてますよ。」
「そのへんの公立高校…学校名は言いたくありません。もう席に着いてもいいですか。」
自分の冷たい態度に教室内は一瞬騒然とした。しかし、それで興味が冷めたのか直ぐに静寂を取り戻した。
斎藤も慌てた様子で場を収め、1番後ろの席に着くよう指示してきた。
ヒソヒソと話す声が耳に入ってくるのを無視して、1列はみ出した自分の席につく。目の前の席に座っていたのが先程挙手をした生徒だったようで、こちらに振り返り笑いかけて手を上げてきたが、それも無視して机の中に教材をしまった。
この学園に来たら揉め事は起こさず、ただ勉学に励んで優秀な成績を修めることだけが目標だと決めていた。変に友達を作って慣れ合おうなんて思ってもいない。所詮周りにいるボンボンなんて親が偉いだけの虎の威を借る狐に過ぎない。偉そうにしているが本人には大した価値なんてない、そう思うと馬鹿馬鹿しくて仕方がなかった。
斎藤が説明する話を聞き流しながら、参考書に視線を落とした。
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