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名前の呪い③
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「あの、何から何まですみません…先輩にご迷惑をお掛けして…。」
「気にしないで。唯くんはシャンプーとかこだわりある?」
「こだわり…は、特にないですけど。」
「じゃあ着替えとタオルだけ自分の部屋から持っておいで。」
また鈴白の部屋を出て、階段を昇って行く。階段に差し掛かる間、妙に周りの生徒の視線が自分に集中していた。編入生が珍しいというのは噂で事前知識として知ってはいたものの、ここまで注目を浴びるものとは思っていなかった。一週間もすれば皆慣れるだろうかなどと考えながら、自分の部屋から着替えのジャージとタオルを持ち出してまた1階の鈴白の部屋へ戻る。一応ノックはした方がいいかと手をあげると、まるで来るのを待ち構えていたかのように扉が開いた。
「わぁっ!…す、すみません。」
「驚かせてごめんね。お風呂今沸かしてるから、良かったら浸かっていいからね。」
「ああ、はい…ありがとうございます。」
正直シャワーを借りるだけでいいと思っていたが、鈴白から言われては断る訳には行かない。幸い他人が浸かったあとの風呂ではないようなので、少しだけ浸かってから直ぐに出ればいいかと頭の中で思考をめぐらせた。
風呂が沸くまでの間はソファで待っていて欲しいと鈴白に言われ、一人部屋だからか広く感じる部屋の中を見回しながらソファに掛けた。
「そういえば唯くんは、星野竜馬くんと仲がいいの?」
「別に、クラスが同じなだけです。というか、先輩もあいつのこと知ってるんですか?」
「…勿論、彼は有名だからね。」
お坊ちゃまでテレビなんて見なさそうな鈴白さえ知っているとなると、まさか知らない自分が異端なのでは無いかと思ってしまう。けれど思い返してみれば、この学園はほとんどの生徒がエスカレーター式に進学しているのだから生徒同士目立つ者は認知されていてもおかしくは無い。
「…その、鈴白先輩はほとんどの生徒の顔と名前覚えてたりするんですか?」
「流石に全員とまではいかないよ。幼稚舎からいる人や今の柳寮にいる人は覚えてるけど、高等部から入学した青葉寮の子なんかは把握しきれないな。竜馬くんも実はそうなんだけど。」
「え、星野って高等部からなんですか?」
「うん、そうだよ。彼が俳優として有名になり始めたのは入学する少し前だから。」
つまりは高等部から入学して青葉寮に入っている生徒以外は全員把握しているということになるが、鈴白が言うならそれも納得できるような気がした。しかし、星野が高等部から入っていたというのは全く知り得ない事だった。入学データをサイトで見た際は、中等部から入学するケースが最も多かったのだ。てっきり星野も昔からこの学園にいたものだとばかり思い込んでいた。
「そうなんですね…えっと、先輩は幼稚舎から?」
「うん。幼稚舎、小等部、中等部は全寮制じゃないからまとめてもう少し街に近い立地なんだけどね。」
鈴白の言った通り、ミハイル学園は高等部だけがやたら辺鄙な場所にある。今日ここまで来る時も、街の駅からバスで1時間ほど行ったあと、更に坂道を10数分歩いてようやく辿り着いたのだ。確かにこれだけの広さを確保するには、街の近くでは面積が足りない。
つい学園のことについて鈴白に質問ばかりしてしまったが、今日ずっと鈴白に迷惑をかけ続けていたことを思い出す。けれど、沈黙が流れると先程の気まずい空気を思い出してしまい、何とか話題を提供しなければならないような気がしていた。
話題を考えている中、沈黙を破ったのは風呂が沸いたのを知らせる機械音だった。
「沸いたみたいだね。唯くん、ゆっくりどうぞ。」
「あ、はい。お言葉に甘えて…」
鈴白の部屋の浴室にあったシャンプーは見たことも無い外国製のもので、ガラスの容器に入ったそれを扱うのに冷や汗をかいてしまった。
慣れない匂いに落ち着くことができないまま、結局湯船に数秒だけ浸かってすぐに風呂を出てしまった。
「随分早かったけど、ちゃんと温まった?」
「え、ええ!それはもう!じゃあ俺はこれで失礼します。本当に今日はご迷惑ばかりおかけして申し訳ありません!失礼しました!」
引き留めようとする素振りを見せる鈴白を後目に、逃げるように部屋から飛び出した。
頭の上にタオルを被せて、足早に自室へ戻る。
「はぁ……」
編入初日にここまで疲れてしまうとは。鈴白にしても星野にしても、最初は絶対に関わることなどないだろうと思っていたのにどうしてこうなってしまったのだろうか。
「…へくしっ」
髪を乾かしていないためかくしゃみがでて身震いをする。さっさと髪を乾かして眠ってしまおうとドライヤーに手を伸ばし、何の気なしに備え付けのテレビの電源をつけた。
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