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名前の呪い④
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テレビをつけてニュースでも見ながら髪を乾かそうと思っていたのだが、最初に表示された番組はくだらない常識クイズの番組だった。
「…くだらないな。」
ため息をついてチャンネルを変えようとすると、テレビの向こうの雛壇に見た事のある人物が座っているのが見えた。
「星野…?」
それはまさに今日何度も目にした男、星野竜馬であった。しかし、テレビに写っている星野はどこか自分の知っている星野と雰囲気が違うように見える。
司会の男が振ったクイズ。世間知らずであろう星野の事だから、きっと分からなくておどけてみせるのではないかと画面を見つめた。
「じゃあ竜馬くんに問題です!この中で冬に最も発症しやすい病気とは何でしょうか?」
するとスタジオとテレビの画面に①脳出血②脳梗塞③心筋梗塞と3択が表示された。客席や周りのゲストからは分かりやすく困惑したような声が聞こえる。これを常識クイズと謳っていいものなのか微妙だが、答えは心筋梗塞だろう。脳出血は春頃がピークのはずだし、脳梗塞は季節によっての変動がない。となると寒さが引き金になり得る3番が正解なのだろうが、はたしてこれをあの星野が分かるのだろうか。
「…じゃあ、3番の心筋梗塞で。」
星野はやけに落ち着いて堂々と宣言している。知識があるようには思えないし、当てずっぽうにしては落ち着きすぎている。まるで最初から答えを知っていたみたいだ。
「正解!いや〜流石イケメンクール俳優!高校生なのによく分かりましたね。」
イケメンなのはまだ納得出来るが、クールという部分は賛同しかねる。今日話した感じではおちゃらけた印象しか無かったが、テレビに映る星野は確かにクールぶっている。
「星野竜馬か…。」
深く関わるつもりは無かったが、どうしても俳優としての星野竜馬が気になってしまい、スマートフォンで「星野竜馬」を検索した。
検索結果に出てきたのは写真集やドラマの情報、そして胡散臭いまとめサイトの数々だった。まとめサイトのタイトルは「イケメンクール俳優星野竜馬。彼女はいる?出身校は?俳優デビューはコネ?親の七光り?」といったよくあるものだ。俳優としての紹介文に目を通すと、確かにテレビではクールキャラとして売っていることが分かる。そして気になったのが、俳優デビューのコネについてだった。
「星野隆盛の息子…。」
テレビ番組で見るのは大抵ニュースか大河ドラマだけだったが、この星野隆盛という俳優は知っている。大河ドラマでも何度か見たことがあるベテラン俳優だ。どうやらこの星野隆盛の息子が星野竜馬であるらしい。元々星野竜馬は「Ryuma」という名前でモデル活動をしていたが、俳優としてデビューするのと同時に星野隆盛の息子であることが世間に公表されたようだ。確かにそれは親の七光りと言われても仕方がない。
「…だから竜馬って呼ばれたがってたのか。」
少し複雑な気持ちになった。星野のことが気がかりという訳では無いが、名前で呼ばれたがっていたのは親のネームバリューを気にしたくないからだろう。自分は悪くないはずなのに、何か悪いことをしてしまったかのような感覚に陥る。
そのまま黙ってテレビ画面を見つめていると、スマートフォンが電話の着信音を鳴らし始めた。
「…父さん?もしもし」
すぐにスマートフォンを手に取って電話に出る。すると、自分が今見ている番組と同じ音が電話の向こうからも微かに聞こえてきた。
「ごめんね唯、まだ起きてる?」
「起きてるけど、どうしたの。」
「今5チャンでやってる番組にパパ出るから!すぐに見て!」
つけっぱなしのテレビに目をやると、いつの間にかよく見なれた父親がスタジオにゲストとして登場していた。
「あー…また出てたんだ、この番組。」
「前回はVTRだけだったんだけどそれが好評でね。ていうか前の時のも覚えててくれたんだ?」
「いや、別に…星野が言ってたから。」
「星野って星野竜馬?まさか友達になったの?」
「友達じゃないよ、クラスが同じなだけ。」
そう言えばさっきもこんな説明を鈴白にした気がする。ハイテンションな父の声をうるさく思いながら、どのタイミングで通話を切るべきか悩んでいた。
「この収録の時少し星野竜馬と話したけど、唯みたいにドライな感じだったよ。だから仲良くなったのかな?話したのはまだ唯の編入が決まる前の時だけどね。」
「だから仲良くないって…母さんは?」
「元気だよ?電話代わろうか?」
「いや別にいいけど…って、聞いてないし。」
父はもうアラフォーだと言うのに相変わらず落ち着きがない。見た目だけは昔からあまり変わっていないが、そろそろ落ち着きを持って欲しいものだ。
「唯…聞こえるか?」
「聞こえるよ、母さん。」
「良かった。明日も学校だろ?今日は早く寝るんだぞ。」
「うん、分かってる。父さんにもよろしく、おやすみ。」
母の配慮によって、ようやく電話が切れた。母と言っても血は繋がっていないし、性別は男だ。いわゆるニューハーフやオカマという訳では無く、れっきとした男性である。父と母は同性愛者の夫婦で、7年前に施設から俺を引き取ってくれた。最初こそ人のことも同性愛者も何もかも信じられず受け入れられなかったが、今では両親に深く感謝している。大切な今の両親のためにも、また明日から勉強を頑張らなければならないと強く思った。
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