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特に何も起きないページ
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運動場に着くと、陸上部はちょうど部室に引き上げようとしているところだった。
「佐瀬ー!」
佐瀬の姿が見えたので、少し遠くから呼んでみると、にこにこしながら駆け寄ってきた。
「川名くん!ごめんね待たせて」
「ううん。今日は教室から佐瀬が見えて、楽しかったよ」
「え、ほんと!俺、かっこよかった?」
「んー、美しかった」
「うつくし…?」
佐瀬はピンと来ない様子で首を傾げている。
「それってほめてるの?」
「褒めてるよ」
「ふーん、ありがとう!」
そういえば前も「かっこよかった?」って聞いてきたな。佐瀬的には走ることはかっこいいことなんだろうか?
「じゃ、早速帰ろう!」
「待って待って。佐瀬何にも持ってないじゃん。制服も着てないし」
「あ…そうじゃん。あはは。部室で荷物取ってこなくちゃ」
相変わらずぼんやりしてやがる。さすが運動神経にステータス全振りされた男。
こんなに平和なやりとりをしてるけど、ここは危険地帯だ。油断してるとあいつがやってくる。
「翔也ぁ」
…やっぱり。
嫌な感じの甘い声と共に蜂谷が近づいてきた。蜂谷は俺をチラッと睨み、佐瀬の腕に抱きついた。
「おつかれさま!今日もかっこよかったよ!」
「やったーありがとう」
なるほど。走る=かっこいいは蜂谷が吹きこんだんだな?
「あ、蜂谷、今日俺川名くんと帰るから、帰りは別々ね」
「んっ?!」
にこやかな佐瀬とは対照的に、蜂谷はピリついた雰囲気を出した。
「……じゃあ、僕も一緒に」
「うーん、ごめん!川名くんは蜂谷のこと苦手らしくてさ、3人一緒は難しいかなーって」
「えっ」
「ふーん…残念だなぁ…」
佐瀬ぇぇ、それを言うのか?!
蜂谷から怒りのオーラを感じる。
元からよくなかった蜂谷との関係がさらに悪化したようだ。まあ友達になるつもりなんてないから別にいいけど。
「ねー知ってる?駅前に新しくプロテインカフェができたんだって」
蜂谷は何もなかったかのようなテンションで佐瀬に話しかけ続ける。
「プロテインカフェ?そんなのあるんだ」
「面白そうでしょ?今日オープン日らしいから、僕と一緒に」
「川名くん行こうよ!」
「えっ興味ない」
突然話を振られ、反射的に断ってしまった。
蜂谷はこれ以上ないくらい俺を睨みつけている。
「そうかぁ…」
佐瀬はしょぼんとした。かわいそうだけど本当に興味がないし行きたくもない。
「僕と、一緒に行こうよ。川名くんとはいつでも帰れるけど、プロテインカフェのオープン日は今日だけだよ?」
蜂谷はかわいらしいにこにこ顔を取り戻し、佐瀬にすり寄った。
「んー…」
「ね?一緒においしいプロテイン飲もうよ〜」
「うーーん…プロテイン、飲みたい…」
あれ?何これ?俺、プロテインと天秤にかけられてる?
他に何の用事もないのに2時間教室で待っていた俺を見捨てる気か?!
唖然としている俺に気づいたのか、佐瀬はふふっと笑った。
「冗談だよ。面白い顔だね」
「え…?」
びっくりした。ただのピュアな脳筋だと思ってた佐瀬が、急に大人っぽい悪い表情をしたから。
「じゃあすぐ戻るから、待っててね」
「う、うん」
佐瀬は部室棟の方へ駆けていく。
ぼーっと見送っていたら、蜂屋に無言ですねを蹴られた。
「痛ぁ!弁慶の泣きどころ!」
「翔也は、気まぐれでお前に関わってるだけだからね」
佐瀬がいなくなったからか、蜂谷はぶりっこをかなぐり捨てて堂々と俺を睨みつけた。
「お前みたいな凡庸な人間、すぐ飽きられるに決まってる」
「へえ…じゃあ蜂谷はもう飽きられちゃったのかな」
「ふざけんなよ」
背の小さな蜂谷に首根っこをつかまれる。
案外力強いな。蜂谷も何かやってるのかな。
「図星だった?」
「……翔也を汚す人間は許さない」
「汚してなんて」
「覚えてろ」
負け犬の捨て台詞みたいなのを吐いて、蜂谷も部室棟へ向かった。
…しかしまあ、蜂谷はどうしてあんなに佐瀬に執着してるんだろう?佐瀬が蜂谷をどう思ってるのかも、いまいちつかめない。
「おまたせっ」
「えっ早くない?」
1分もたたずに佐瀬が戻ってきた。
「早いでしょー!どうせ明日も学校来るんだし、荷物いらないなーと思って全部置いてきた!着替えも別にしなくていいかなって」
「スマホは?」
「あっ、ない!でもまあなくても」
「定期券は?」
「置いてきたな。いやでも切符買えばいいし」
「財布は?」
「…取りに行ってきまーす」
「そんなに急がなくていいから、服もちゃんと着替えてきなよ」
「わかった!」
佐瀬は素直にうなずき、再び部室へ走っていった。
その後、制服を着て鞄も持った佐瀬と一緒に駅へ歩いていくことになった。
「ところで、佐瀬はどうして今日俺と一緒に帰ろうとしたんだ?」
「うん?んー…」
佐瀬は俺の前にくるっと回りこみ、俺の顔を見下ろした。
「川名くんって、去年1年2組だったよね?」
「そうだけど」
「いつも見えてたんだ。授業中、窓際の席の川名くんが」
「えっ、そうなんだ?」
去年から俺のことを認識してたのか。全く知らなかった。
佐瀬はにこっと笑って俺の隣に戻った。
「川名くんのこと、もっと知りたいな」
「…それで、一緒に帰ろうって?」
「うん。クラスも違うし、いっぱい話せるのって学校終わったあとくらいなのかなって思って」
「なるほど…」
なんだか気持ちがむずむずする。佐瀬は俺に興味があって、もっと知りたいと思ってくれている。これ以上なんの深みもない人間なのに。
「…俺も、佐瀬のこと知りたい」
「ほんと?おすすめはチョコレート味だよ!」
「ん?何が?」
「プロテイン」
「プロテインのことは知らなくていい」
「ふふふ。じゃあ何が知りたい?」
「え…」
なんか質問したら答えてくれるってこと?
「セックスしたことある?」
「えっ……?」
迷わずそう聞いていた。経験者かどうかというのは大事だ。こちらの気持ち的に。
「えーっと…俺下ネタ苦手で…」
佐瀬は口元を手で隠しそっぽを向いた。
「……川名くんはあるの?」
「ないよ。ないない」
山内と由比はノーカンだ。佐瀬以外は全員なかったことになるのだ。
「そんなこと聞かれるなんて思わなかった…」
佐瀬が小さく呟いた。
「あー…ごめんね。よくツバキにも言われるんだ。川名は直接的すぎるって」
「ツバキって…りょーくんだっけ?」
「りょっ…ああ、うん」
そうだった。佐瀬は「椿原」が覚えられなくてりょーくんって言ってたっけ。
うらやましいなあまったく。
「仲良いんだね」
「うん。幼稚園から一緒」
「えー、すごいね!」
「佐瀬と蜂谷はいつからの付き合いなんだ?」
「中学生だよ。部活が一緒でさ。蜂谷、今はマネージャーやってるけど、中学のときは選手だったんだよ」
「へー、意外…」
下心のみでマネージャーをやってると思ってたんだけど、そういうわけでもないんだろうか。
「そういえば、蜂谷と佐瀬って番なのか?」
「へっ?」
この機会に、最初から気になってたことをはっきりさせとこう。
佐瀬は笑いながら答えた。
「違うよー!番って…あははっ」
「そんな笑う?」
「川名くんは本当に下ネタが好きなんだね。覚えとこう」
「えー、番って下ネタか?」
「だって普通、付き合ってるの?とか聞くもんじゃないの?セックスしたとか番とか、かっとばしてるなーって思って」
「うーん、じゃあ、恋人、いたことある?」
「川名くんは?」
ノータイムで聞き返された。
「佐瀬から言ってよ」
「えー、内緒」
「なんで?!」
「内緒って言われると気になるでしょ?」
「うん…?」
一体何が言いたいんだ?佐瀬は時々よくわかんない次元にいるよな…。
「川名くんって面白いね」
「え…そうか?そんなに面白い人間じゃないと思うけど」
「ううん。面白いよ」
「うーん…」
「ところで、川名くん電車はどっち方面なの?」
「東京方面」
「あっじゃあ違う路線だ。ここでお別れだね」
「えっ…もう駅か」
話すのに一生懸命で周りの景色をあまり見ていなかった。駅はもう目の前で、佐瀬との時間は終わりらしい。なんとなく名残惜しい気分になる。
「川名くん」
「うん?」
佐瀬の姿は、夕日を反射してオレンジ色に光っていた。
「去年より元気そうだね」
「………えっ…な、なんで、去年…?」
「窓越しの川名くんは、あんまり元気がないように見えたから」
「いや、だって、授業中は、そんな元気いっぱいってわけにもいかないし…」
動揺したのを隠すように言い訳してみたけど、語尾がもごもごと消えていく。
佐瀬は本当に、見てただけなんだろうか?何かを知ってて俺に近づいてきたんじゃ…。
「川名くん、もう文通はやめよっか」
「えっ?!どうして?」
佐瀬は変わらず微笑んでいる。
俺、何かしたんだろうか。俺の下ネタ発言に嫌気がさした?
「ライン、交換しよ?」
そう言って佐瀬はスマホを俺に見せつけた。
「す、するー!します!する!」
「川名くん面白ーい」
よっしゃああ佐瀬の連絡先ゲットだ!
佐瀬の情報が俺のスマホに入るってことは、もはやスマホ越しにセックスしてるようなもんだぜ!
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