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ほうれん草
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「佐瀬と、付き合うことになった」
翌日、満を持して報告すると、椿原はぽかんと口を開けた。
「…マジで?」
「うん」
「え、でも、性奴隷じゃなくて?」
「佐瀬が、性奴隷は無理だけど彼氏ならどうかって」
「川名は、それでいいのか?目的は性奴隷だったんだろ?」
心配そうに聞く椿原を見て、俺は深呼吸をした。
「…たぶん、ツバキの言う通りだったんだ」
「え?」
「俺は佐瀬にフラれるのが怖かった。βの俺は、結局βと付き合うしかないんだって思い知らされるのが怖くて。だから、性奴隷になりたいなんて言って、自分の気持ちから逃げてた」
「…うん」
「でもさ、俺やっぱり、佐瀬のことが好きなんだ。性欲だけじゃなくて、恋愛的な意味で。本当は彼氏になりたかったんだよ」
「………」
「ツバキ?」
椿原は黙ってうつむいている。
「おい、ツバ…」
「よかった」
椿原は言葉を絞り出すようにそう言った。
「川名が前を向けるようになって、本当によかった」
椿原の声は震えている。…もしかして、泣いてるのか?
「大げさだなー」
「だよな。でも、嬉しかったから」
ぽんぽんと肩を叩いてやると、椿原は涙に濡れた顔を俺に向けた。
「幸せになれよ、川名」
「…うん」
想像以上にしんみりした空気になった。さすがに感情移入しすぎだ、椿原。
「でも、あんなに性的なことに執着してた川名が性欲ゼロの佐瀬と付き合うなんて、大丈夫なのか?」
「まあ、なんだかんだセックスはできるだろうとふんでいる」
「なんで?」
「そりゃあ俺の悩殺ボディーで…」
「だまりやがれ」
「口悪ーい」
ひとしきり笑った後に、椿原は手を差し出した。
「それじゃ、椿香水返して」
「……え?」
「え?じゃないよ。彼氏になったってことは、椿香水は使わなかったんでしょ?」
「あ、ああ……」
すっかり忘れてた。椿香水、どこやったんだっけ?蜂谷に奪われて、身体中にかけられて、そして…?
「あのー…ごめん」
「うん?」
口角を上げたまま、椿原の眼光が鋭くなった。
「いや、ほんと、ごめん」
「謝ってるだけじゃわかんないんだけど」
「えーっと……蜂谷に…とられて…」
「何?よく聞こえない」
「蜂谷にとられましたごめんなさい!」
「このやろう!」
せっかくいい雰囲気だったのに、ランニング作戦の失敗から山内とのセックス、佐瀬の乱入に至るまで全部説明することになってしまった。
佐瀬に連れ去られた後、山内と蜂谷がどうしたのかは知らないけど、残りの椿香水が入った瓶はおそらく蜂谷が持っている。
「よりによって蜂谷か…」
椿原は深くため息をついた。
「一生懸命頼んで返してもらってくるから」
「蜂谷は山内とつながってるんだよね?そっちに行ったら最悪…」
「ちんぽ挿し違えてでも取り返すから」
「ちんぽは挿すな」
椿原は真顔でツッコんだ。
「にしても、佐瀬も変わってるよな。そんなひどい場面を目撃した直後に『彼氏にしたい』って」
「それは本当に。絶対嫌われると思った」
「性欲ないヤツの考えることはよくわかんないね」
「性欲、本当の本当にゼロなのかなぁ…」
「なんで?」
「だって、性欲がないのに彼氏が欲しいとか思うのかなと思って…」
「性欲と恋愛感情は別物じゃない?」
そう言うと椿原は、スマホを取り出し何やら検索をしだした。
「もしかしたら佐瀬は、アセクシャルなのかも」
「アセクシャル?」
椿原にスマホを渡されて画面を見ると、アセクシャルとは?というページが表示されていた。
「…他者に恋愛感情や性的欲求を抱かない人?」
「佐瀬は川名に恋愛感情を抱いてるけど、誰に対しても性的欲求は抱かない。そういう人だっているんだよってことだろ」
「うーん…」
正直なところ、ぴんとこない。でも、そういう人もいると言うなら、なるほどと受け止めるしかない。
「…俺は、そっちのがいい」
「えっ?」
「性欲で行動する人間は嫌いだ。馬鹿みたいだ」
椿原はどこでもない場所をぼんやり見つめながら呟いた。
「えーと……俺、めちゃくちゃディスられてる?」
「ん?」
「性奴隷になりたい!とか言って小細工を重ねる俺、相当の馬鹿じゃん!」
「川名のことは昔から馬鹿だと思ってるよ」
「なんだと!!」
椿原はクスッと笑った。
「川名は馬鹿なままでいいよ」
「馬鹿じゃねえし!」
「川名と佐瀬はバカップルなんだね」
「佐瀬と一緒にするな!」
しかし…まずいな。蜂谷は椿香水を返してくれるだろうか?
まあ俺はいつも通り、正々堂々頼みに行くしかないんだけど。
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