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どすこい
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早速昼休みに、俺は蜂谷の教室へ向かった。もしかしたら佐瀬のところへ行ってるかもしれないと不安だったが、蜂谷はクラスの連中とにこにこ食事中だった。
「蜂谷ー」
俺が近づいていくと、蜂谷は笑顔を崩さずに答えた。
「どちらさまですか?」
「そりゃないよ蜂谷クン」
「………」
蜂谷は無言で俺を教室の外へ引っ張っていく。
そして人が少ない階段の裏で、すっと笑顔をひっこめて腕を組んだ。
「教室まで来て話しかけないでくれる?変態の仲間だと思われたくないから」
「こっちこそ、レイプ犯の仲間だと思われたくはないね」
「レイプ?あれが?ほぼ合意でしょ」
「お前何言って…いや、いい。今日はケンカしに来たわけじゃないし」
「じゃあ、何?」
蜂谷はキツく睨みつけている。しかしよくもまあ、佐瀬に近付いただけでこれだけキレられるもんだな。よっぽど短気なんだろう。
そんな短気な蜂谷に、俺は爆弾をぶつけようとしている。
「あのな蜂谷、お前に伝えておきたいことがあるんだよ」
「何?もったいつけて」
「佐…いや、翔也と付き合うことになった」
「っ………」
予想に反し、蜂谷はすぐにぎゃんぎゃん怒ることもなく、言葉を失って呆然としている。
「これ以上、蜂谷に文句は言わせないから」
「………」
「蜂谷?」
蜂谷の唇が震えている。俺の呼びかけに応えるように上を向くと、そのまま両目からつーっと涙を漏らした。
「え、蜂谷?な、泣くほどショックか?」
「……違う」
蜂谷は小声でそう言って、目をぐりぐりと擦った。
椿原が泣いたのには驚いたけど、まさか蜂谷まで泣くとは思わなかった。1日に2人も泣かせてるじゃないか。
「ほら蜂谷、ハンカチどうぞ」
ポケットからくしゃくしゃのハンカチを出して蜂谷に差し出すと、蜂谷はハンカチを手にとり床に叩きつけた。
「恋人ができたのが嫌なんじゃない。相手がお前なのも、腹立つけど仕方ない」
「じゃあ、どうして泣いてるんだ?」
「翔也から直接聞きたかった。お前なんかじゃなくて」
「…なるほど」
正直、グサっと来た。蜂谷の鼻を明かしてやりたいという気持ちでいっぱいで、佐瀬と蜂谷の関係性について全く気にしていなかったのだ。
佐瀬も同じことを思うだろうか?自分から蜂谷に報告したかったって。
蜂谷は下を向き、懸命に涙を拭っている。叩きつけたハンカチを拾って再び渡すと、蜂谷は窓の外に放り投げた。
「ああっ、俺の洗ってないハンカチが!」
「きったな…で?これ言うために教室まで来たの?性格悪…」
「違う違う。彼氏宣言はついでで」
「はあ?ついで???」
「あのさ、香水の瓶持ってる?あの日蜂谷が俺にかけまくったやつ」
「…ああ、あれ」
蜂谷はめんどくさそうにうなずいた。
「返してくれない?」
「なんで?」
「なんでって、そりゃ、俺のだし。拾ったものを持ち主に返すのは当たり前だ」
「あっそ…」
しまったな。蜂谷の機嫌がめちゃくちゃ悪い。彼氏になったなんて報告せずに、先に返してもらえばよかった。
蜂谷は腕を組み、俺の様子をうかがっている。
「返してもいいけど、あれが何なのか教えて」
「ただの香水」
「僕、見てたよ。椿原がお前にあれを渡すところ。ただの香水って感じじゃなかった」
「あー…すっごくいい香りなんだよ。これつけて告白すればきっと上手くいくって言われて。まじないみたいなもん」
「嘘。お前の様子は香水をかけた途端におかしくなってた。あの香水には何かの作用があるはずだ」
蜂谷は目を光らせた。
なんか…まずいな。どんどん追い詰められているような…。
「ゆうくんはお前からΩの強烈なフェロモンがしたって言ってた。でもお前はβだよな。フェロモンなんて出るわけない」
「山内の気のせいだろ」
「川名ぁ」
蜂谷は一歩距離をつめた。
初めて面と向かって名前を呼ばれた気がする。
蜂谷の視線は鋭く一直線に俺を刺している。
「あれは香水じゃなくて、Ωのフェロモンだよね?」
「………いや、」
「なんで嘘つくの?ずるい方法で翔也を手に入れて、後ろめたい気持ちがあるから?」
「違う!」
思わず大声で否定していた。
「ずるくなんてない。俺は蜂谷と同じ土俵に立っただけだ」
「同じ土俵?」
「Ωなんて、ずるいじゃんか。相手を興奮させるフェロモン出して誘惑して、自分もめちゃくちゃ気持ちよくなって…」
ドン
蜂谷は俺の肩を思いっきり突き飛ばした。全く構えてないタイミングでの攻撃だったから、よろけて尻餅をついた。
「何が同じ土俵だよ。お前と僕は全然違う。馬鹿にするな」
「蜂谷…」
蜂谷はそのまま立ち去ってしまった。
…怒らせた。たぶん俺が悪い。
蜂谷のことなんてどうでもいい。ただ椿香水を返してもらえればよかった。でも、傷つけたかったわけじゃないのに。
沈んだ気分で教室に戻り、椿原の席に向かった。
「ツバキごめん。俺失敗して……ん?」
椿原の手には椿香水の小瓶があった。
「え?なんで持ってるの?」
「ついさっき蜂谷が教室に来て、俺に渡したんだ」
椿原は小瓶を光に透かして見ている。
「めちゃくちゃ減ってるね?」
「落としたりかけられたりしたから……蜂谷、何か言ってた?」
「ううん。不機嫌のかたまりみたいな顔でやってきて、俺の机にドンって置いて去ってった。川名何かしたの?」
「えーと…まあ色々…。椿香水がΩのフェロモンでできてるってことまでバレちゃった」
「…仕方ないか」
椿原はそう呟き、笑顔でパンと手を叩いた。
「ま、いいじゃん蜂谷のことは。そんなことより佐瀬との幸せな性生活に向けたプランでも練りなよ」
「…ツバキは、俺がずるいと思う?」
「え?何の話?」
こんなこと、椿原に聞いたって仕方ない。でも不安な気持ちが溢れて、誰かに聞いてほしくてたまらない。
「ずるして佐瀬を手に入れたって言われて、なんだかものすごく腹が立ったんだ。『俺は蜂谷と同じ土俵に立とうとしただけだ』って言ったら、蜂谷がキレて…」
「…そっか」
「図星だったから、腹が立ったのかな。卑怯なことしてるってどこかで思ってたから…」
うつむく俺の前髪を、椿原はかきあげた。
「同じじゃないよ。蜂谷と川名は同じ土俵には立てない。ヒートと椿香水は全然違う。俺や蜂谷は自分の好きな時にフェロモンを出して、好きな人を誘惑できる飛び道具を持ってるわけじゃない」
「…うん」
つくづく俺は無神経だ。考えるより先に言葉が出てくるし、考えたとしても全部言ってしまう。
オメガバースを嫌っている椿原に、こんな話しない方がよかった。
謝ろうとして顔を上げたら、予想に反し、椿原は笑っていた。
「川名はそれでいいじゃん。純粋に、Ωがうらやましいって思って、佐瀬のために頑張ってる川名を見てると、俺は元気をもらえたよ」
「…そんな風に思ってたの?」
「そもそも川名がうらやましかったのは、フェロモンじゃなくて番でしょ?手段と目的がごっちゃになっちゃってるんだと思うよ」
「ああ…たしかに」
「それに椿香水は役に立たなかったじゃん。ずるどころか遠回りしてたよね」
「…優しいね、ツバキは」
「まあね」
椿原のフォローのおかげで、平常心を取り戻すことができた。蜂谷の言葉なんて、やっぱり気にする必要ない。
ドヤ顔を見せつける椿原の鼻をちょんと突いた。
「ツバキの言う通り、椿香水は全然役に立たなかった」
「そこ強調しなくていいから」
「そういや将来製品化を目指してるんだよね?どういう層向けなの?」
なんとなく聞いてみたのだけど、椿原は人差し指を口に当て、にやっと笑った。
「川名には秘密」
「えー?なんでだよー」
「話したら、川名はきっと俺を止めるから」
椿原は目を逸らし、ぽつりとそう言った。
「…どういうこと?」
「もう昼休み終わるよ。席に戻らないと」
「あ、ああ…」
不穏な発言が気になりながらも、真面目な俺は素直に席に戻った。
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