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ズッ友
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家に着いたらもう18時になっていた。とりあえず晩ご飯を食べてから行くと椿原に連絡した。了解、という短い返事が返ってきた。
返事がシンプルなのは前からだけど、どんな感情なのか少し気になる。あんまり歓迎されてないというか…佐瀬にすごく気を遣っていたけど。
恋人ができると、関係性ってやっぱり変わるもんなんだろうか。俺はただ今まで通りの生活の中に、佐瀬とのいちゃいちゃが加わるだけがよかったのに。
夕食後、ドーナッツの袋を下げながら、夜道をてくてく歩いて椿原の家へ向かう。5分ほどで着き、ラインをすると、椿原はスウェット姿で家から出てきた。
「ドーナッツ買ってきたよ!抹茶のやつ」
ぷらぷらと見せびらかすと、椿原はにやりと笑った。
「やるじゃん。公園で食べよう」
「ツバキの部屋は?」
「川名はもううち来るの禁止」
「えー?!なんで!」
椿原はドーナッツの袋を奪い、近所の公園へ向かってさっさと歩き出した。
「川名はあんまり気にしてないみたいだけどさ、彼氏がいるのに俺の家で2人きりになるのは、やっぱりよくないと思うよ」
「でも…ツバキは友達だし。俺、翔也が蜂谷の家に遊びに行っても、別になんとも思わないよ」
「それは川名が蜂谷のことを全く脅威だとは思ってないからでしょ?」
「ツバキは脅威なの?」
「…とりあえず、佐瀬が俺のことを好きじゃないのはびしびし伝わってくる」
椿原ははっと息を吐き出した。
好きじゃない…んだろうか?たしかに椿原がいる時の佐瀬の様子は変だけど、軽くやきもちやいてる程度のものなんじゃないかなぁ。
「でもさ、言ったじゃん。翔也と付き合うことになっても、俺とツバキはズッ友だよって!」
「キモい」
「前も同じこと言われたな」
「まあとにかく、俺の部屋にはもう上げない。これは決定事項だから。俺のせいで川名と佐瀬がケンカになるのは絶対に嫌なんだよ」
「なんか寂しいな」
「…そうだね」
「………」
同意されるとは思わなくて、言葉が出てこなかった。椿原は特に気にしていない様子で公園へ入っていく。
2人でブランコに腰掛けて、ドーナッツをもしゃもしゃと食べる。ドーナッツ、夕食、ドーナッツという構成はさすがにお腹に来たため、一口食べて残りは椿原にあげた。
「それで?悩み相談は?」
「その前に、大会の時のことなんだけど…」
「俺から椿香水を奪った挙句、上手くいかなかったんだっけ?」
「う…奪ったというか…まあ、それは本当にごめん」
椿原はもしかしたら結構根に持ってるのかもしれない。にやにやしてるから、俺を責めて遊んでるだけかもしれないけど。
「翔也に椿香水を使ってみたんだけど、これまでみたいに身体能力は向上しなかったんだ。普通のαと同じように性欲が高まって…それで結局、大会はすっぽかした」
「じゃあ、椿香水としてはやっと成功したわけか。脳筋どころかペニスまで筋肉でできてるみたいな佐瀬を欲情させることができた」
「うん。でも、椿香水の性能が特に変わったわけじゃない。変わったのはきっと翔也の方」
「川名を好きになって、性欲に目覚めたってことだね」
「うん…」
「川名はそれが嫌なんだ?」
ふと椿原を見ると、優しげな表情で俺を見ていた。なんとなく気が緩んで、言葉がすらすらと出てくる。
「翔也が俺のことを好きになってくれたのも、性欲が湧いたのも嬉しいよ。でも俺は、2番目でよかった」
「2番目?」
「翔也の1番は陸上で、それ以外の時間俺に構ってくれればいい。俺のために全部捨てるなんて間違ってる。翔也は俺の価値をはかり間違えてるんだよ」
「川名は川名で、自己評価が低い気がする」
「いやでも…例えば、『仕事とわたし、どっちが大事なの?』って彼女に聞かれて、『君の方が大事だから仕事辞めてくる!』って答えるヤツがいたら、正気かよって思うでしょ?」
「仕事と部活じゃ別問題だと思うけど…言いたいことはわかるよ。佐瀬が重いって話でしょ?」
「重い……」
今まで全く浮かんでいなかった言葉が出てきて、はっとした。
俺は佐瀬を重いと思っていたんだろうか…?
「なあ、俺、どうしたらいいのかな?この展開が正解だとは、どうしても思えないんだよ」
「………」
椿原なら何でも答えてくれるような気がして、思わず問いかけていた。
椿原はブランコをこぎながらしばらく黙っていたが、やがて動きを止めて口を開いた。
「正解はわからない。俺は川名が幸せになってくれればそれでいいから」
「…うん」
「……もっとお互いのことを知ったほうがいいと思うよ。佐瀬の…」
ヴーンヴーン
椿原が何か言いかけたところで俺のスマホがぶるぶる震えた。画面を見ると、佐瀬からの着信が入っていた。
「ごめんツバキ!翔也から電話。出ていい?」
「ああ、どうぞ。そんな嬉しそうな顔して…結局君ら仲良いでしょ」
「えへへ」
電話が来たのなんて初めてだ。離れたところにいるのに佐瀬の声が聞けるなんて、全く大した発明だぜ!
テンションがぎゅんと上がるのを感じながら、俺はスマホをタップした。
「はい!こちら川名景太!」
『公園で何してるの?』
「………え?」
何の前置きもなくそう聞かれ、耳を疑った。
「ど、どういうこと?翔也、今どこにいるの?」
もしかして近くにいるのかと思ってきょろきょろ見回してみるが、佐瀬どころか誰の姿も見えない。
『俺は自分のうちにいるよ。景太はどうしてこんな時間に公園にいるの?』
「え、いや……ツバキとおしゃべりしてるけど…」
『ツバキくんと仲良くするのはやめてよ』
「えっ?」
『今すぐ絶交して家に帰ってよ。俺、電話で聞いてるから、友達やめるって言って』
「ちょ…ちょっと落ち着いて。とりあえず今日は俺帰るから、明日話聞くよ」
『………』
何も言わずに電話を切られてしまった。
一体どうしたんだろう…。佐瀬の様子がおかしい。
呆然とスマホを見ていると、椿原が声をかけてきた。
「佐瀬、なんだって?」
「えーっと……俺、翔也に居場所把握されてるみたいで…」
「……ちょっとスマホ貸して」
「あ、うん」
椿原にスマホを渡すと、目の前で設定を開き、アプリ一覧を表示させた。
「このアプリ、ストーカーウェアじゃない?」
「何それ?こんなのインストールした覚えないけど。ホーム画面にもないし」
「佐瀬が勝手にインストールしたんだよ。川名のスマホの位置情報とか通話記録とかメッセージが、自動的に佐瀬に送られてる」
「は……?」
「消した方がいい」
椿原はスマホを突き返した。
わけがわからずスマホを見つめていると、肩に手を置かれた。
「川名、大丈夫?」
「あ…うん…」
機械的にスマホの画面を切り、ポケットにしまった。
「消さないの?」
「とりあえず、明日佐瀬と話す」
「何かあったら相談乗るから」
「………」
佐瀬は椿原と絶交してほしいらしい。
きっと何か誤解してるんだ。話せばわかってくれるはず。椿原に嫉妬する必要なんて、全然ないんだって。
「川名?どうした?」
椿原が心配そうな顔で肩を叩いている。
「あ、いや……俺、もう帰るわ」
「そっか…」
「ツバキ…俺たち、ズッ友だからな!」
「またそれ?ハマってんの?」
「ズッ友だからなぁぁあ!」
「うるせえ!」
ぐずぐずしてるとまた佐瀬から電話が来るかもしれない。
俺はドーナッツのゴミを椿原に押しつけて家に帰った。
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