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人間関係破壊マシン
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昼休みに中庭に行くと、佐瀬はベンチに座って、ビニール袋をぶんぶん振っていた。
「景太ー!おにぎり買ってきたよ!早くー!」
「あはは、ありがとう」
隣に座ると、佐瀬はじゃじゃーんと言いながらおにぎりを取り出した。
「梅とー、鮭とー、ツナマヨとー、こんぶとー、鳥五目とー」
「待て待て!何個買ってきたんだ!」
「ふふ、内緒。何でもあるよ。何がいい?」
「え、じゃあ…赤飯と鳥五目」
「おこわが好きなんだね。はい!サラダとサラダチキンも買ってきたから、栄養バランスもばっちりだよ!」
「おー!ありがとう。残りのおにぎりどうするの?」
「犬の餌にする」
「あれ?犬飼ってるんだっけ?」
佐瀬は鼻歌をうたいながら自分の分のおにぎりをぺりぺりはがしている。
なんだか楽しそうだな、と思いながら俺も赤飯にかぶりついた。おいしい。やっぱりおにぎりは赤飯が一番!
むしゃむしゃしていると、佐瀬がぽつんと呟いた。
「あ…来た」
「うん?」
佐瀬の視線の先には、蜂谷がいた。俺を見ると一瞬嫌そうな顔をしたが、真っ直ぐこっちに向かってくる。
「蜂谷呼んだの?」
「うん」
なんだか、とてつもなく嫌な予感がする。
「翔也、話って何?なんでこいつもいるの?」
少し不機嫌そうな蜂谷に対し、佐瀬はにこにこしながらおにぎりがたくさん入ったビニール袋を差し出した。
「これ、あげるよ」
「え、何?おにぎり?こんなにいらない…」
「餞別だよ」
「…え?」
佐瀬の口から似合わない難しい言葉が出てきた。辞書で調べたんだろうか。
「餞別って、どういうこと?僕、どこにも行かないけど」
「俺たち、ここでお別れしよう。もう友達は終了」
「は…?」
蜂谷はぽかんとして、佐瀬と俺を見比べている。
「翔也ぁ…こいつに何か言われたの?いくら……付き合ってるからって、何でも言うこと聞く必要ないんだよ?」
「景太は何も言ってない。俺は100%自分の意志で蜂谷と絶交したいんだよ」
まずい。これはきっと俺のせいだ。俺が朝言ったことのせいで、佐瀬が変な方向へ動いている。
「ま、待って翔也。翔也は誤解を…」
「景太は静かにしてて」
間に割り込もうとしたが、佐瀬にぴしゃりと拒否されてしまった。
「ねえ蜂谷、俺昔から蜂谷のこと、鬱陶しいなって思ってたんだ」
「へ…?」
佐瀬は穏やかに蜂谷に語りかけている。その様子と会話内容に差がありすぎて、蜂谷は何の反論もできずに固まっている。
「マネージャーとか言って俺にまとわりついてきて、頼んでもないのに周りに噛み付いて、すっごく迷惑だよ。中学の頃は、陸上部で選手してたよね。蜂谷足速かったもん。なのに、どうして陸上やめたの?自分が一番だって思ってたのに、どれだけ練習したって俺には勝てないからだよね。ちっぽけなプライドを傷つけられて、諦めて、蜂谷は俺になりたかった自分を投影してるんじゃないの?」
「しょ…うや…?」
「俺の人生を自分に重ねるのはやめてよ。蜂谷が陸上をやめたのも、俺が陸上をやめたのも、それぞれの決断でしょ。俺に口出ししないでよ」
「ご、ごめん。口出しとか…そんなつもりじゃ…」
「とにかくさ、俺は蜂谷のこと嫌いなの。おにぎり持ってこの場から消えて?」
「………」
蜂谷はぎこちない足取りでどこかへ去っていく。佐瀬はそんな蜂谷から目をそらし、嬉しそうに俺を見た。
「ふふっ、上手くいったよ」
「翔也は…蜂谷のことが嫌いだったの?今まで鬱陶しいと思ってたの?」
「え?別に?嫌いじゃないよ。蜂谷優しいもん」
「じゃあ、なんであんなこと…」
「蜂谷と出会ってからの5年間を全部思い返してみて、蜂谷が一番傷つきそうな言葉を選んでみたんだ。完全に縁を切るために」
「………」
嫌いじゃない友達に対して、あんな言葉を投げかけられるものなんだろうか。目の前の佐瀬が、何か得体の知れない生き物みたいに見える。
「ツバキくんは、なんて言われたら一番傷つくのかな?」
「え…」
佐瀬はわくわくした顔で2つ目のおにぎりに手を伸ばした。
「俺は蜂谷と絶交したから、今度は景太がツバキくんと絶交する番だよ」
「そ、そんな約束してない」
「えー?まだ足りないの?じゃあ次は何を失えば、景太はツバキくんを捨ててくれるの?」
佐瀬の澄んだ瞳が俺を刺している。
佐瀬がおかしくなってるのは、俺のせいだ。佐瀬から陸上を奪ったから。椿香水で操ろうとしたから。一目惚れなんかしてしまったから…。
「…わかった。ツバキと絶交する」
ぐるぐると混乱する頭で頷いた。
「わーい!じゃあ俺、見守ってるね。景太がちゃんとツバキくんのこと傷つけられるのか。それでその後、よく頑張ったねーって抱きしめて慰めてあげるから」
「……うん」
「ご飯食べたらすぐ行こう!ツバキくん、教室にいるかな?」
「いると思うけど…」
味のわからなくなってしまった赤飯を無理矢理飲み込み、佐瀬に急かされるまま教室へ向かった。
椿原はクラスメイトと一緒に昼食をとっていた。さすがにその場で絶交とかなんとか言い始めるわけにもいかないので、教室の外まで呼び出した。
「俺今すごくおいしいロービー丼食べてたんだけど」
「うわぁ昼から豪勢だな…」
むっとしている椿原を連れて、普段使われてない教室へ入った。そこで待っていた佐瀬に気づくと、ツバキは警戒した様子で一歩下がった。
「えっと…何か俺に用があるの?」
何と答えたものか言葉に困って佐瀬を見上げると、佐瀬は黙ったまま微笑んだ。
俺が話を進めろということだろうか。
「あのさ…と、友達を、やめてほしくて」
「…はい?いきなりどうしたの?」
おずおずと切り出した俺に対し、椿原は困惑した様子で尋ねた。
「俺、翔也と付き合ってるから、ツバキは…その…邪魔なんだよ」
「邪魔って?」
「えっと、だから…」
「なあ、佐瀬。そんなに俺が嫌い?」
俺の言葉を遮って、椿原は佐瀬に問いかけた。佐瀬は特に驚いた様子もなく、にこっと笑って首を傾げた。
「嫌いじゃないよ。そもそも嫌いな人なんていないし。俺は景太のことが大好きで、その他の人は全員どうでもいいもん」
「…不健全だな」
佐瀬は後ろから俺の肩に両手を置き、耳元で囁いた。
「ねえ、早くツバキくんのこと傷つけてよ。何を言えば一番傷つくのか、友達ならわかるよね?」
「え…もう言ったじゃん。ツバキのこと邪魔だって」
「でもツバキくん、傷ついてないよ」
「そ、それは…翔也が後ろにいるから、言わされてる感が見えちゃってるからでは」
「全部見えてても傷つくような、ひどい言葉を選んでよ」
「………」
佐瀬は本気だ。本気で俺と椿原が仲違いするまで解放してくれない。
何を言えば椿原が傷つくか、実はすぐに思いついていた。
言いたくなかった。椿原を傷つけたくない。でも俺は…佐瀬の彼氏だから…。
「ツバキ、俺ずっと思ってたことがあるんだ」
「何だよ」
「Ωは人間の欠陥品だ」
「………え?」
椿原の顔を正面から見れず、俯いて制服の端を握った。
「差別されるのは当たり前だよ。周りの人間に迷惑ばっかりかけてるんだから。ツバキは自分が劣ってる存在なんだって自覚しないといけない。色んなものに守られて、配慮されて、それなのにできることといったら発情だけ。そんなのもはや…動物っ…でっ……」
だめだ。涙が出てきて、上手く喋れない。
椿原はΩが差別されることを本当に嫌がっていた。椿原が色々頑張ってたのは知っていたし、俺は絶対に味方でいようと思っていた。
「ツ、バキは…ツバキ、なんかっ…」
「大丈夫だよ」
後ろから優しい声が聞こえて、ふわっと抱きしめられた。
「ツバキくんはどっか行ったよ。もう何も言わなくていい」
「うっ、ううう…おれ、あんなこと、おもってない…」
「わかってるよ。景太、頑張ったね。ありがとう」
「翔也ぁぁ…」
腕の中で半周して、佐瀬に抱きついた。佐瀬は俺を安心させるかのようにポンポンと背中を撫でる。
わけがわからない。俺があんなことを言ったのは、こんなに悲しい気持ちになっているのは、佐瀬のせいなのに、でも今は佐瀬の体温に癒されている。
「ツバキ、どんな反応してたの?」
「んーと…あんまり見てなかった」
「み、見てなかったの?」
「だって、泣いてる景太が可愛かったから。景太のことしか見えなかった」
「ひどい」
「ごめんね」
さすがに文句を言おうと思って佐瀬を見上げると、間髪入れずに唇にキスされた。
「んっ、ちょっと、翔也…」
「景太、好きだよ。世界で一番大好き」
「あっ…お、おれも…んんっ」
精一杯言葉を返すと、佐瀬は唇を甘噛みしてきた。優しい刺激にドキッとして、抱きしめる力が強くなってしまう。
「景太は本当に可愛いね」
唇が触れるか触れないかの距離でそう囁かれた。焦ったくて唇に吸いつくと、佐瀬の舌が摩擦を楽しむみたいにゆっくりと口内へ侵入した。クチュクチュと音がするような激しいキスをしていたら、頭がくらくらして、体の奥がキュウっと熱くなった。
「はあっ…翔也…これ以上は、だめだよ。もう行かないと」
心と身体を無理矢理落ち着かせ、佐瀬の肩を押す。
「行くって、どこに?」
佐瀬は獲物を仕留めようとする獣のような目で俺を見つめてた。
ごくりと唾を飲み込み、震えた声で答える。
「教室…。もう、昼休み終わるし」
「行きたくない。こんな状態で行けないよ」
そう言って佐瀬は股間同士を緩く擦りつけた。じんわり熱くて硬いものを感じ、心臓が早鐘を打つ。
「景太も勃ってるじゃん。これで教室行ったら、変態になっちゃうよ」
「こ、ここでどうにかするのも、変態に変わりない」
「ここでするなんて言ってないのに……そんなにしたいの?」
佐瀬は俺の右手を取り、手の甲をすりすりとやらしく撫でた。
「し……たい…」
「よく聞こえなかったから、もう一回言って」
「いじわる…」
涙目で見上げると、佐瀬はにこっと笑った。
「俺、景太の前では意地悪になっちゃうのかも。こんな俺だと、嫌いになる?」
「ううん。好きだよ」
そう答えると、佐瀬はぎゅーっと強く俺を抱きしめた。
「ありがとう。俺も、大好き」
昼休み終了のチャイムがやけに遠くから聞こえる。何も聞こえなかったふりをして、ただ佐瀬に身体を預けた。
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