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正直なところ
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佐瀬とは結局、学校に残って一緒に宿題をしていくことにした。俺だって大して成績がいいわけじゃないけど、佐瀬があまりにもできなさすぎて、一生懸命教えているうちに時間は過ぎていった。
なんとかやり終えて家に帰ると、またぼやぼやと椿原のことを思い浮かべてしまう。
体調はどうなんだろう。俺の言ったこと、どれくらい気にしてるんだろう。佐瀬との恋愛に関して、椿原には迷惑をかけ続けているな…。
スマホを手に取り、アプリ一覧を開いてみた。
ストーカーウェア…削除したらバレるよな。そしたらきっと佐瀬は傷つく。そもそも椿原のことを心配してしまうのも、佐瀬にとっては裏切り行為になるんだろう。
だいたい椿原だって、もうこれ以上俺と佐瀬には関わりたくないと思ってるかもしれない。謝りたいのだって結局は自己満足だ。
でも俺は……。
スマホを机の上にコトリと置いた。
俺は、椿原に会いたい。
ちょっと出かけてくる、と親に告げて家を出た。暗くなり始めてる道を、何も考えないようにしながら黙々と歩いていく。
椿原の家に着き窓を見上げると、椿原の部屋は明るくなっていた。
意を決してインターホンを鳴らすと、しばらくしてガチャリとドアが開き、少しだるそうな顔をした椿原が出てきた。
「ツバキ…」
「……なんで来たの?絶交したのに」
「ツバキに謝りたくて。ひどいこと言ってごめん!」
「ここにいることバレたら、面倒なことになるでしょ」
「スマホは置いてきた」
「………上がりなよ」
椿原はため息をつき、俺を招き入れた。
家の中は、人の気配がしない。体調悪いのに一人でいたんだろうか?
「ツバキしかいないの?」
「隣の家のじいちゃんが死んで、親は葬式行ってる」
「体調大丈夫?」
「まあ…だいぶ良くなった」
椿原は自分の部屋のベッドにごろんと横たわった。
「あ…ごめん。体調悪いのに押しかけて」
「全くだよ」
「絶交のことなんだけど…」
「いい。大体想像つく。別に怒ってない」
「でも…ごめん。ツバキが一番嫌なことをいって、傷つけた」
「いいってば。お前らが上手くいくなら、俺はどうなってもいいから。絶交も、すればいいじゃん。俺はお前らにとって厄介の元でしかないんだし」
「厄介じゃない。ツバキは俺の友達だ」
「友達……」
椿原は布団を握りしめ、形の綺麗な目で俺をじっと見ている。
「川名はよく友達友達って言うよね」
「…だって、友達だから」
「確かに、俺と川名は友達だよ。友達でいようって言ったから。でも、佐瀬はそう捉えるかな」
「………」
聞きたくないことを言われようとしている。去年からずっと、考えないようにしていたこと。
「佐瀬にとっては、俺らは友達じゃなくて元彼だよ」
「…なんで、その話をするの?せっかく忘れてかけてたのに」
「佐瀬と上手くいってほしいから。俺とは仲良くしちゃだめなんだよ」
「でも……」
椿原とは中学3年生の冬から高校入学間際まで付き合っていた。別れてから俺はかなり落ち込んで、空っぽになっていた。でもしばらくして椿原が、仲直りして友達になろうと言って…俺は付き合っていた時のことは忘れて、昔のような友達に戻ったつもりでいた。
「…翔也は俺らが付き合ってたことなんて知らないじゃん」
「付き合ってたことは知らないかもしれないけど、佐瀬はたぶん気付いてる」
「何を?」
「俺が今でも川名を好きなこと」
「……は?」
思ってもみなかったことを言われて、頭の中が真っ白になる。
「な、なんで?ツバキが言ったんじゃん。お前とは付き合えないって」
「言った」
「恋人でいたくないって。俺に関わるなって。なのに、なんで?!」
「嘘ついてた。ごめん」
「ええ…?」
力が抜けていく。俺が大変ショックを受けて塞ぎ込んでいたあの時間は、なんだったんだろうか。
「どうしてそんな嘘を…」
「別れたかったのは本当だよ。俺は川名と付き合ってるのが嫌になった」
「俺の何が悪かったの?」
「川名は悪くない。悪いのは……」
椿原を何かを言いかけたが、結局口を閉じた。
「ツバキ、本当のことを教えてよ。あの頃何があったのか」
俺が懇願すると、椿原は布団で顔を半分隠しながら話し始めた。
「………うなじ……」
「え?」
「うなじを噛まれた」
「そ…それって……」
「俺はもうヒートが来ないんだ。たった一人のαの前でしか」
「………」
「川名と別れる数日前、卒業式の日……みんなが外で写真を撮っている時、俺は体調が悪くなって1人で教室に戻ったんだ。そしたら突然強いヒート状態になって…俺は必死で抑制剤を打とうとした」
「卒業式のことは、少し覚えてる。ツバキと一緒に写真を撮りたかったのに、どこにも見当たらなかった」
「頭がぼーっとして、全身がだるくて、カバンの中に入れていたはずの抑制剤を、なかなか見つけられなかった。そこにあいつが来たんだ」
「あいつって誰?」
「由比だよ」
「えっ?!」
予想もしていなかった人物の名前が出てきて、絶句する。たしかに由比は椿原が好きだけど、まさかそんな…。
「レイプされて、その最中にうなじを噛まれた。必死で抵抗したけど、全然力が出なかった」
椿原は何でもないことみたいに淡々と語っている。だけど、俺は椿原の恐怖や悔しさを想像してしまい、こっちが泣きそうになる。
「今も…番なのか?解除できるんだよね?」
「……解除はしてない。顔を合わせたくないし、あいつは一度断った」
「由比が…?」
俺が知っている由比の姿と、上手く結びつかない。由比はプライドが高くて口が悪いけど、単純で不器用で、なんだかんだいいやつだと思ってたから。
「とにかく、川名と別れたのはそれが原因」
「いや、わかんないよ。だからって、どうして俺らが別れることになるんだ?どうして相談してくれなかったんだよ」
「…川名を幸せにしたかった」
「はあ?」
「番がいるΩなんかと付き合ったら、川名は不幸になる。川名はなんの足枷もない、ちゃんと愛してくれる人と付き合って、幸せになってほしかった。俺の人生に川名を巻き込みたくなかった」
「そんなの、ツバキの勝手じゃんか!」
「それに…レイプされたなんて、川名にだけは知られたくなかった」
「なんで…なんでそうなるんだよ。もっと俺を信じて、頼ってくれよ。俺の幸せが何か、ツバキは全然わかってない。俺はどんなことがあってもツバキと…」
ツバキと一緒に生きていきたい……そう言いかけて、口をつぐんだ。
「ツバキが俺の恋愛を応援するなら、俺もツバキを応援するよ。由比を殺してでも番を解除させて、ツバキが好きな人と付き合えるようにする」
「必要ない。俺が好きなのは川名だよ。今までもこの先もずっと。川名以外に好きな人なんてできない」
「そんなこと…」
「佐瀬のことを重いって言ったけど、本当は俺だって重いんだ。引くでしょ?」
「…ツバキはそんなに俺のこと執着してないのかと思ってた。告白も何回か断られたし」
「川名が俺を好きになるより前から、俺は川名のことが好きだったよ。でも俺はΩだから、自分の気持ちを叶えたら、きっと川名は苦労する。だから断ってた。…結局、それが正しかったってことだ」
中学生の時の淡い記憶が、ふつふつと思い浮かんでくる。俺が楽しく脳天気に過ごしている間に、椿原はそんな寂しいことを考えていたなんて。
「…今日はもう帰る。頭の中ごちゃごちゃになってるし、ツバキも体調悪いし」
「川名……」
椿原はベッドから体を起こし、俺を見上げた。
「今日言ったことは、全部忘れて。ずっと言わないつもりだったから」
「…そんなことできない」
俺は椿原に近づき、上半身を抱きしめた。
「ツバキに起きたことは、俺が絶対に解決する」
「ハグはだめだよ」
椿原は弱く押し返す。
「これは友情のハグだ」
「佐瀬はそう思わないし、俺も……」
「翔也には、明日ちゃんと話す。俺は前に椿原と付き合ってたけど、今はもう別れてる。俺が愛してるのは翔也だけだって」
「……うん」
「説明すればわかってくれるはずだよ。そうしたら、俺とツバキも元に戻れる」
半ば自分に言い聞かせるようにそう言った。
隠すから疑われるんだ。正直に話せば、俺の愛は絶対佐瀬に伝わる…はずだ。
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