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椿原の家
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椿原のスマホを握りしめ、急いで家へと向かった。目が覚めて縛られているのに気づいたら、さぞかし怖い思いをするだろうから、気づく前に外してあげたい。そう思って走っていたのに、椿原の家の玄関から出てきたのは椿原本人だった。
「えっ?!無事なの?」
「無事じゃない。今日もまだ風邪気味」
「あ、そう…」
椿原は若干ぼーっとした表情で鼻をすすっている。
薬を飲まされ拘束されていたという様子は特に見受けられない。もしかして佐瀬は、何もしていなかったのか…?
「もう学校始まってる時間だよね。なんで俺の家来てるの?」
「ああ。えーっと…スマホ渡しに来た」
何から話したらいいのかわからず、とりあえずスマホを差し出すと、椿原の表情が曇った。
「………佐瀬と会ったのか」
「会っ…た……」
やっぱり、佐瀬と何かしらあったのは確かなようだ。
椿原は伏し目がちに問いかけた。
「ここに来てもいいの?何度も言ってるけど俺が原因で川名と佐瀬が揉めるのは…」
「もういい。俺たち別れたから」
「え?!」
「これ以上揉めることはない。ツバキに迷惑はかからない」
「俺のせいで…?」
椿原はドサっとその場に尻もちをついた。
「ツバキ?大丈夫?」
慌てて駆け寄ると、椿原は首を横に振った。
「頭が痛くて気持ち悪い」
「風邪だな!話は後にして、とりあえず上がれよ」
「ここ俺の家なんだけど」
「ベッドは2階にあるから、ゆっくり休め」
「だから俺の家なんだけど?!」
「あはは。元気じゃん」
「お前こそ」
椿原に肩を貸しながら部屋まで向かった。少し空気がもわっとしていたので、椿原をベッドに下ろした後で窓を開けた。風が吹いてきて心地よい。
そういえば…佐瀬のあの家はなんだったんだろう?どうして家が2つあるのか…
「それで、なんで君らは別れたの?俺が原因?」
椿原はベッドに横たわり、軽く落ち込んでいるような口調で呟いた。
「関係してるけど、ツバキのせいってわけじゃない」
「うん…」
「俺はツバキを切り捨てられないし、翔也は独占欲が強すぎる。翔也の気持ちを全部受け止められるだけの器が俺にはなかった。こんなのがこの先も続くかもしれないと思うと…付き合い続けるのが嫌になった」
「それって結局…俺のせいなんじゃ…」
「ツバキがいなくても、いずれ同じことが起きてたよ」
「そうかなぁ…」
「ところで、ツバキは薬を飲まされて縛られてたんじゃなかったの…?」
「ああ。佐瀬はそのつもりだったんだろうけど」
椿原は肩をすくめ、ベッドの上に置いてあったネクタイを拾い上げた。
「まず、薬は飲んでない。これ飲んでくれって錠剤渡されて、何か聞いたら睡眠薬だっていうから、とりあえず飲むふりをして、目を瞑って横になった」
「え…なにそれ?!こっそり飲まされたとかじゃなくて、飲むようにお願いされたの?」
「うん。佐瀬、馬鹿正直だよな。そういうところは川名と似てる」
「俺はそこまで馬鹿じゃない」
「次にこのネクタイで右手首とベッドの枠を蝶々結びされた」
「左手は?」
「何もせずに出てった」
「アホじゃん!」
「佐瀬がいなくなったらすぐにネクタイを解いた。スマホをとられたのだけは、どうしたものかと思ってたけど」
「それで普通に玄関に出てきたわけか」
「だからさ、別れることないよ。結果的に佐瀬は俺に何にもしてないし、これからもきっと大したことはできない。俺と川名が交流を持たないようにすれば、揉めることはない」
椿原はネクタイを俺に押し付けた。
「これ、佐瀬に返してきてよ。別れるのは撤回するって話すついでに」
「…どうしてそんなに別れてほしくないんだ?俺の勝手だろ」
俺はゆっくりとネクタイを床に置き、椿原を見つめた。椿原は俺の視線から逃げるように床を見ている。
「俺は川名を傷つけたから…せめてこれから先は幸せになってほしい」
「そういうの、俺はいらない」
「え…?」
「ツバキに幸せにしてもらいたいなんて思ってない」
「………ごめん」
「俺のことが好きだから、頑張ってるの?」
「まあ…」
「いやぁ、イケメンはモテるね」
「お前調子乗ってるな?」
「乗ってる」
「はー…」
椿原は呆れたように笑った。
「やめよう、この話は」
「ツバキ」
椿原の横たわるベッドに近寄り、その綺麗な瞳に視線を合わせた。
「もう一度俺と付き合って」
「……え?」
「…ごめん。なんでもない」
自己嫌悪で頭を抱える。中学時代に戻ってやり直せたら…なんて頭の片隅で思っていたせいで、つい言葉に出てしまった。
「川名は、ことあるごとにツバキは友達だって言ってたよね」
「うん」
「俺もそれがいい。川名が好きな人と結ばれて、楽しそうにしてるところを、ヤジ飛ばしながら見てる友達でいたい」
椿原はベッドから手を伸ばし、俺の腕をつかんだ。
「そう言い聞かせてたけど、やっぱり無理みたいだ」
「えっ…」
突如身体がぐいっと引っ張られ、俺は椿原に抱きしめられた。
「本当に川名を応援したいなら、そばにいるべきじゃなかった」
「ツバキ…」
「俺、実はちょっと嬉しかった。佐瀬に嫉妬されることも、川名が俺と絶交できないことも、………佐瀬と別れたことも」
「………」
椿原の身体がゆっくりと離れていく。
「川名が俺と付き合いたくなったのは、ただの懐古だよ。たとえ恋人になったとしても、もうあの頃には戻れない。楽しかった思い出として封印したほうがいい」
「……そうかな」
「川名はβだからよく知らないだろうけど、番がいるΩが他の人と付き合うのは難しいんだよ」
「どうして?」
「…どうしても」
椿原は布団に深く潜りこみ、顔が見えなくなってしまった。
「川名と話してたら体調が悪化してきた。今日はもう帰って」
「ああ…」
部屋から出ようとしたところで、そっと振り返った。椿原は布団にくるまったまま、身動きひとつしない。
「ツバキ、何かあったら相談しろよ。友達として、絶対力になるから」
「…ありがとう」
椿原の家を出ると、自然と大きなため息が出た。
まだ1日の半分も過ぎてないのに、色んなことが起きた。佐瀬の無茶な行動に嫌気が差して別れて、結局椿原は無事だったものの、なんだか気まずい関係になってしまい…。
「あっ、学校どうしよう」
サボるか。うん。サボろう!不良みたいでドキドキしちゃうな!
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