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久々登場
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『俺はアホじゃない』と主張したものの、実際には気持ちが逸って小走りで特進教室へ向かった。
ちょっと入りづらい特進教室をドキドキしながら覗くと、そこには都合良く佐瀬……と……
「あれ?どうした川名。そんなところで」
「由比……」
教室には佐瀬と由比がいた。なぜか2人で机を突き合わせて座っている。
「景太!もしかして、俺に会いに来てくれたの?」
佐瀬は驚いた様子で立ち上がった。そしてじわじわと笑顔になっていく。
「あ…うん…」
「…ああ、お前ら付き合ってるとか言ってたっけ。それなら俺は席を外そう」
「待って」
どこかへ行こうとする由比を、咄嗟に呼び止めた。
「何だ?」
「由比に話したいことがある」
「はあ。どうぞ」
「…いや、ここだと…」
佐瀬の方をチラッと見ると、ばっちり目が合った。椿原とのことを問い詰めたいけど、佐瀬の前ではさすがに聞けない。
「ちょっと、こっち来てくれ」
「景太…?行っちゃうの?」
由比の腕を引っ張って連れて行こうとすると、佐瀬が心細そうに呼びかけてきた。
「そこで待っててくれない?」
「うん…」
「お、おい。いいのか?恋人をほっといても」
由比は困惑した様子で俺と佐瀬を見比べている。
「とにかく来て」
由比を連れて隣の教室へ入った。特進クラスは少人数に分かれて授業を行うこともあるらしく、隣は空き教室となっているのだ。
「何で俺だけ連れ出すんだ?佐瀬に勉強を教えていて忙しかったんだが」
「勉強?!翔也に…?いや、そんなこと今はいい。ツバキのことなんだけど」
「な、なんだ?またキューピッド気取りでアドバイスでもするのか?」
「由比、俺に話してないことあるよね」
「………」
由比の喉仏が上下した。
「俺、由比のこと結構好きだったよ。プライドは高いけど、根はいい奴だと思ってたし、そんなにツバキのことが気になるなら、くっつけばいいと思ってた。……だけど、お前最低なことしてたんだな」
「…椿原から聞いたのか」
「由比はどんな気持ちでツバキのことが好きって言ってたわけ?レイプして、無理矢理番にして、解除しようともせずに」
「俺は、常に最善の選択をしてきたつもりだ」
由比は拳を握りしめ、俺をじっと見据えた。
「最善?何が…?」
「Ωのフェロモンをまともに浴びて、我を失ってしまった。だがその後はすぐにアフターピルを飲ませ、病院に連れて行こうとした。…近寄るなと言われ、連れて行くことはかなわなかったが」
「………」
「椿原への気持ちは抑えて、もう近づかないと決意した。レイプなんて二度としたくなかったから。…川名のせいで、顔を合わせる羽目になったけども」
「じゃあどうして番を解除しないんだ?αとΩのことはあんまり詳しくないけど…解除もできるんだろ?」
「川名は知らないかもしれないが、一度番を解除したΩは、生涯誰とも番にはなれなくなるんだ。つまり番を解除すると、椿原は一生ヒートに苦しむことになる。俺と番のまま、会わないようにすれば、ヒートも起きないし俺に襲われることもなくなる」
「それが由比の最善の判断ってこと?」
「そうだ」
「独りよがりだね」
「は…?」
俺は由比に詰め寄った。
「それでツバキのこと、守ってるつもり?ツバキはそんなに弱くない。番なんていなくても、自分の力でやっていける人間なんだ。由比の存在はツバキの足枷にしかなってない」
「そんなの…それこそ川名の独りよがりな思い込みだろう。お前に番の何がわかる」
「じゃあツバキに直接聞いてみようよ。避けてばかりいるんじゃなくて、俺と一緒にツバキに会いに行こう。ちゃんと謝って、この先どうするのか話し合おう」
「は……」
由比は虚をつかれた様子で言葉を詰まらせた。
「正しいとは思わないけど、由比は由比なりにツバキのことを考えてたんだな。その点は、安心した」
本心を伝えると、由比は視線をそらした。
「…会いたくない」
「なんで?やっぱりツバキを縛ったままでいたいの?」
「…俺は、番になる前から椿原のことが好きだった。だけどあの日、自分の気持ちはドロドロでぐちゃぐちゃしたものに変わってしまったんだ。椿原に会うと、またあれが蘇ってきそうで…怖い」
いつも強気な由比が、珍しく弱音を口にしている。
「大体椿原も俺に会うのは嫌だろう。これ以上嫌われたくない…」
「たしかに、ツバキは由比に会いたくないと思うよ。由比はツバキにひどいことをしたんだから。フェロモンを浴びたからって、許されることじゃない」
「………」
「でも、このままじゃだめだよ。ツバキも由比も前を向くためには、どこかでケリをつけないと」
「……考えさせてくれ」
由比は深呼吸してそう言った。
椿原から由比のことを聞いた時は、殺してでも解除させると思っていたけど、思いの外冷静に話を聞くことができた。
これでどうにか解決してくれればいい。由比の気持ちも椿原の気持ちも、きっと俺には真に理解することはできないけど…。
「…あ、そういえば、どうして翔也に勉強を教えてたの?」
「佐瀬に頼まれた。さすがに自分の成績が悪すぎると自覚したんじゃないか?」
「確かに悪すぎるけど…」
佐瀬が自主的に勉強するなんて、めちゃくちゃ意外だ。陸上、恋愛の次は勉強に全精力を注ぎ込むつもりなんだろうか…?
由比と一緒に教室へ戻ると、佐瀬は入り口のすぐ近くに立っていた。
「わ、びっくりした」
「由比くん、今日はありがとう」
佐瀬はにっこり笑って由比に言った。
「ああ、もう勉強はいいのか?」
「うん!俺だいぶ頭良くなった気がするし」
「それは気のせいだ」
「うん!じゃあ、またね!」
「雑だな…」
由比は荷物を片付けて出て行き、教室には2人きりになった。
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