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家族
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その後、なかなか戻ってこない佐瀬を置いて学校を出ると、正門に蜂谷が立っていた。
「あれ、蜂谷…誰か待ってるの?」
「お前に決まってるでしょ」
蜂谷はむっとした様子で腕を組んだ。
「えー…もし俺が、翔也と2人でラブラブな感じで歩いてきたらどうするんだよ。とんだ邪魔者じゃん」
「なんでラブラブな感じで歩いてこなかったの?フラれたの?」
「いや……え、お前なんなの?一緒に帰るの?ご遠慮願いたい」
当然のように隣を歩き出した蜂谷にちょっと文句を言ったが、蜂谷は全く意に介さず話を続けた。
「翔也、教室にいたでしょ」
「…知ってたのか」
「まあ。よりは戻した?」
「それは蜂谷に言わないといけないわけ?」
「僕がセッティングしたんだから、知る権利があるじゃん」
「……あ、そういえば、翔也が変なこと言ってたな。蜂谷に嘘ついたの、謝っといてって」
「えっ?嘘…?」
「蜂谷、翔也に何言われたの?」
蜂谷は驚いたのか、大きな目をさらに見開いている。
「…病気になったから部活やめたって。ある日練習中に体がおかしくなって、病院に行ったら元からちょっと変だったホルモンバランスががたがたに乱れてることがわかって、激しい運動は控えた方がいいって言われて」
「そんなことは言ってなかった。スランプが辛くてやめたようなことを言ってたけど」
「ええ…?だから僕、そんな状態の翔也を支えられないで何が恋人だと思ってお前に文句言いに行ったのに」
「蜂谷が陸上陸上ってうるさいから黙らせたかったんじゃないの?」
「…もしくは、お前を呼ぶためだったのかな」
「えっ?」
「お前ら、別れたんでしょ?翔也が病気だってお前に伝わるようにして、心配して会いに来てくれるのを待ってたとか」
「それなら、蜂谷に言わずに俺に直接言えばいいじゃん」
「直接言ったら、そこで話は終わる。でも他人から聞けば、本人に事情を聞きに行かなきゃって気になるでしょ。より能動的に心配されるわけだ」
「翔也がそこまで計算するかな…」
首を傾げていると、蜂谷がぽつりと言った。
「まあでも、本当に嘘なのかはわかんないね」
「翔也は実際体調を崩してるってこと?」
「体調を崩した。スランプになった。川名に心配してほしい。これらが全部真実だとしても矛盾しない」
「じゃあ、どうして嘘だって言ったんだ?」
「僕にこれ以上関わってほしくないんでしょ」
蜂谷は突き放したような口調でそう言った。
佐瀬は蜂谷に謝ったらしいけど…2人の間には埋まらない溝ができてしまったような気がする。
なんともフォローできずに黙っていると、蜂谷はため息をついた。
「まあ、病気じゃないならいいんだけど。…それで?お前らどうなったの」
「あ、そんなことより、蜂谷は翔也の家族の事情って知ってる?」
「お前はマジで自分のことばっかだよな…」
「ん?」
蜂谷は呆れたように言った。
「お前と翔也がどうなったか詳しく教えろよ。僕はそれを聞くためにわざわざ待ってたんだ」
「…蜂谷怒りそうだし」
「怒らない」
「仲直りして友達になった」
「なんで今さら友達?仲直りしたなら恋人に戻らないの?」
「……翔也は、ツバキのことを気にしてるから…」
「ツバキって…椿原?何を気にしてるの?例の香水の件?」
香水って…椿香水のことか。蜂谷に知られてたこと、すっかり忘れていた。椿香水でわいわいしてたのが遠い過去のことみたいだな…。
「香水は関係ない。えーっと…そもそも翔也がツバキに嫉妬したのが、諸々のきっかけで…」
「ああ……お前は、翔也と椿原を天秤にかけてるわけ?」
蜂谷は腕を組み、かなりきつく俺を睨んでいる。怒らないって言ったのに…。
「俺は翔也が好きだよ」
「椿原は?」
「……放っておけない」
「なんだそれ。椿原なんて放っとけよ。頭良いし気が強そうだし、どうにでもなるでしょ」
「ツバキはすぐひとりで抱えこむから」
「それなら、たまに椿原の愚痴を聞いてあげるとかしてればいいんじゃないの」
「蜂谷はそんなに俺と翔也に付き合っていてほしいの?」
「話を逸らすな」
蜂谷は低い声でそう言って俺の正面に立ちはだかった。
「椿原が好きなんでしょ。だから翔也を選べない」
「俺は翔也が好…」
「他の人のことを考えてる相手に、好きだと言われる翔也の気持ちを考えたことある?」
「なんで、こんなところで蜂谷に釈明しないといけないわけ?」
我慢できなくなって、蜂谷の肩を強く押した。
「わかってるよ。蜂谷の想像通りだよ。でもお前は何様なの?俺と翔也はちゃんと話し合って友達になったんだ。翔也が俺に考える時間をくれたんだ。関係ないくせに口出しするな!」
一気にそう叫ぶと、蜂谷はびくっと体を震わせ、深呼吸した。
「……わかった。もう問い詰めない」
「…うん」
「小学校の頃、自分の名前の由来を聞いてきて、発表する授業があった」
「何の話…?」
蜂谷は戸惑う俺の方を見ずに淡々と話し続ける。
「僕の名前は、お父さんの名前と同じです。お父さんは僕がお腹にいることがわかると、お母さんに会いに来なくなりました。だからお母さんは、僕をお父さんの代わりに愛するために、同じ名前をつけたそうです」
「え…?」
「翔也がそう発表して、次の年から名前の由来を聞いてくる授業はなくなった」
「………」
「中学校に上がった頃から、翔也は母親と別居してる。母親の兄弟が親代わりらしい。僕はこれ以上詳しい事情は知らない」
「そうか……」
想像した通り、佐瀬の家庭は複雑そうだ。佐瀬がどれくらい気にしているのかはわからないけど…。
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