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お宅訪問その2
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夏休みが始まり、よっしゃ遊ぶぞとわくわくしていた俺は、なぜか早々に学校へ来ていた。
なかなか連絡がとれなかった椿原から珍しく電話が来て、何かと思えば「αの体液はまだか」と催促されたのだ。
俺の友達は大半がβで、交流があるαは佐瀬と由比くらいしかいない。ということで由比にどこかで会えないかと連絡したら、学校を指定されたのだ。中学が同じで家は遠くないはずなのに、なぜわざわざ学校まで出て行かないといけないのか。全くもって面倒くさい。
生徒会室へ入ると、由比は1人で何かの書類を眺めていた。
「生徒会長って、夏休みにも仕事があるの?」
「……川名、来たか」
由比はなぜかしょっぱなから不機嫌そうな様子で俺に目を向けた。
「由比、なんか怒ってるの?」
「いや、緊張してるだけだ。ついにこの日が来たかと思うと…」
「は?何の話?」
「椿原と和解しに行くんだろう?」
「うん?違うけど」
何か誤解が生じているらしい。俺、用があるから会いたいってメッセージ送っただけなのに。
「ち、違うのか?この前、椿原に会って話し合おうって言ってたから、そのために今日会うのかと…」
「由比、時間くれって言ってたじゃん。もういいの?」
「いや、それは……というか、じゃあどうして今日俺を呼んだんだ?」
「由比の体液が欲しくて」
「通報する」
「ゆいゆいひどーい」
由比は途端に力が抜け、めんどくさそうに書類をまとめだした。
「なんでそんなもん欲しいんだ」
「ツバキが欲しいんだって」
「は……?」
由比が持ち上げていた書類がドサドサっと床に散らばった。由比は拾おうともせずぽかんと固まっている。
「つ…椿原は…俺のことが好きなのか?」
「勘違いクソ野郎め」
「だって、他に思いつかないだろ?俺の体液が欲しい理由って…」
「さっき俺が同じこと言った時、まさか川名は俺のことが好きなのか?って思った?」
「川名がまた馬鹿なこと言ってるなと思った」
「ツバキも馬鹿なこと言ってるだけだよ」
「いやでも…あの椿原が俺の体液を…あれか?Ωの本能的なものなのか?」
「キモい…」
「今の俺にはアホ川名の悪口など聞こえない」
なぜか夢見心地の由比には呆れるしかない。
…まあ、俺が話を端折ったせいもあるけど。椿原はαの体液が欲しいだけで、由比の体液はむしろいらないだろう。
だけど、確実に体液をゲットしたいならこう言ったほうがいいに違いない。
「あのな、由比は自覚すべきだ。ツバキが由比を好きになることは未来永劫ない」
「川名に何がわかる?番の絆は強いんだよ」
「はあ…?」
「本能がお互いを求め合うんだ。恋人や家族とも違う、もっと強くて深い繋がりが…」
「それがお前の本心か?」
「……川名?どうして怒ってるんだ?」
「いや………うん」
思い切り息を吸い込み、ゆっくりと全て吐き出した。
落ち着こう。椿原との問題を解決させるためにも、由比にはキレないと決めたんだ。
「たしかに、俺には番のことはわからないよ。俺が知らない2人だけの感覚があるのかもしれない。でもそれが、恋人や家族の絆より強いなんていうのは、由比の思い上がりじゃないかな」
「お、怒ってるよな、川名?冷静なフリしてなんかすごく怒ってるよな?」
「…とにかく、ツバキは由比のこと好きじゃないからな。体液だって由比のが欲しいわけじゃなくて、αなら誰でもいいんだから」
「なんだそれ…?」
「俺と一緒にツバキのところへ行こう。体液を提供して、ごめんなさいして、番を解消して、今度こそ永遠に縁を切れ」
「体液の必要性がわからん」
「文化祭で売るんだよ」
「俺の体液を?!」
「由比の体液を使って香水を作るんだ」
「くさそう」
「じゃあ今からツバキの家に行こう」
「話についていけない…」
由比はぶつぶつと文句を言っているが、腹が立っているから無視だ。
俺と椿原の関係を一切知らないから仕方ないけど、由比に番を語られるとめちゃくちゃイライラする。
「椿原は、俺が来ること知ってるのか?」
由比は心配そうに聞いてきた。
「いや、今日は何も約束してない」
「いきなり行っていいのか?」
「由比が来るって事前に話したら、家に入れてくれるわけないだろ?」
「…じゃあ、行かない方がいいだろう」
「強くて深い繋がりがあるなら、大丈夫でしょ」
「………」
由比は何か言いたそうに俺を見ている。
「何?」
「いや…お前は……俺に嫉妬してるのか?」
「は?!」
「川名は番を作れないから、佐瀬や椿原との間にそういう特別なものがないのが悔しいのか?」
「見当違いも、はなはだしいよ。由比はどれだけ俺を怒らせたいの?」
「やっぱり怒ってたのか」
「俺はそもそも由比を応援しようと思ってたし、レイプの件では心底軽蔑したけど、ツバキも翔也も由比も、友達にはなれなくても円満な関係になってほしかったから、言わないほうがいいと思ってたんだけどさ」
「何だ?」
「由比のせいで、俺とツバキは別れたんだよ」
「………え?」
言ってしまった。いや、そもそも全く話さない方がおかしかったんだ。
由比の顔色がさっと青くなった。
「お、お前らは……付き合ってたのか?」
「うん。誰にも言ってなかったから、由比が知らないのは仕方ない」
「………」
由比は放心していて、何も言葉が出てこないようだった。
「由比がツバキをレイプして、何も知らないまま俺はフラれた。番って、そんなに偉いのか?俺とツバキの繋がりは、特別なものとは言えないのか?」
「…すまなかった」
由比は小さな声でそう言って、頭を下げた。
「俺じゃなくて、ツバキに謝りなよ」
「川名にも謝りたい。いつも邪険に扱っていたけど、本当は川名のことは好きだった。なのにそんな川名に俺はひどいことを…」
「好……え?」
予想外の言葉に驚いていると、由比は頭を上げて俺と目を合わせた。
「俺は、常に上を目指していた。レベルの低いやつに合わせるのは無駄だと思ってたし、そういう感情を隠して愛想良く振る舞うのは苦手だ。そんな性格の悪い奴に気軽に話しかけてくれるのなんて……川名くらいしかいなかった」
「半分馬鹿にしてたけど」
「それはわかってたし毎回ムカついているが、とにかく川名は俺にとって貴重な友人なんだ」
そう言って由比は再び頭を下げた。
「椿原は、俺が責任を持って幸せにする」
「………へ?」
聞き間違いかと思ったが、由比は真面目な表情で話を進めた。
「同意なく番になってしまったから、椿原には近づかないのがいいと思っていた。だがそのせいで川名と椿原が別れたなら、かわりに俺が椿原を守ってやりたい」
「い、意味がわからん。由比がすべきなのは、番を解消してツバキを自由にすることだ」
「そうしたら、椿原が1人になってしまうじゃないか。川名はもう佐瀬と付き合ってるんだから」
「はあ…?」
由比の理屈が全くわからない。頭がおかしくなってしまったんだろうか…。
「椿原のところへ連れて行ってくれ。体液なんていくらでもくれてやる。俺の全てを椿原に捧げよう」
「ああ…知らんぞ…?」
おかしくなった由比を連れて椿原の家へ向かう。由比を見えないところで待機させ、インターホンを鳴らすと、眠くて機嫌が悪そうな椿原が出てきた。
「……何?」
「久しぶり、ツバキ。αの体液持ってきたんだけど…」
機嫌がよろしくないからひとまず退散しようかと思ってちらっと後ろを見ると、由比が飛び出してきた。
「うわっ、待て由比!」
「椿原!俺がお前と結婚してやる!」
なぜか上から目線のプロポーズをかました由比を、椿原はとても冷たい目で見つめている。
「死ね、レイプ野郎」
椿原は俺の腕を引っ張って家の中に入れ、ドアを勢いよく閉めて鍵をかけた。
「なんであいつ連れてきたの」
「ご、ごめん……」
こんなにも最悪な対面になるとは思ってなかった…。
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