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距離感
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家に帰ってスマホを見ると、『今日は悪かった』というラインが由比から入っていた。
こいつ何が悪かったのかちゃんと理解しているんだろうか?と思いつつ、一旦スマホを置く。
由比が番を解除すれば、椿原は計画を中止するだろうか?そもそも由比を説得するのが困難極まりないわけだけど…。
ポォンと通知が来たので再びスマホを見ると由比からで、『番を解消したいから椿原を連れてきてくれ』と書いてあった。
「……え?まじで?」
信じられなくてスマホの画面をしばらく見つめていたが、それ以上のメッセージは来なかった。
一体どういう心変わりだろう。番を解消するなんて全く頭になさそうな印象だったのに。
ところで番を解消ってどうやってやるんだろう?気になって調べてみたら、どうやら病院で行うらしい。Ωにとっては、一生に1人の番の解消。しかし解消する際、αの同意は必須で、Ωの同意は不要と書いてある。全くもって不公平だ。このタイミングまで知らなかった俺も、不公平な社会の一員なんだろう…。
ひとまず、椿原の意向を聞くから待てと伝えておいた。佐瀬と海へ行ったら、そのお土産を渡すという名目で椿原のところへ行って話してみよう。
海に行く日、佐瀬は約束の9時ぴったりに現れた。
「景太!海に行くよ!水着持った?」
玄関のドアを開けると、満面の笑みを浮かべた佐瀬が立っていた。よほど楽しみにしてたらしい。
「うん。はいてく」
「な…なるほど!家からはいていけば現地ですぐ海に飛び込めるってことか!」
「翔也、水泳の授業の日、中に水着はいて行ったことないの?」
「ないね。俺部活で朝練あったから、汗びちょになっちゃうし」
「あせびちょ…」
「ねー早く行こ?」
佐瀬に急かされ家を出た。外は太陽がぎらぎらと照りつけていて、さすが夏本番といった感じの暑さだ。
「晴れてよかったね。台風来るとかいう予報も出てたけど」
「ほんとだね。雨降ってる中海に入ると風邪ひいちゃうかもしれないもんね」
「翔也、台風来ても行くつもりだったの…?」
「ん?うふふ」
「俺行かないからな…」
「冗談だよ」
「翔也ならやりかねん。…ところで、どこの海行くの?」
「そんなに遠くないよ。あの…おっきいプールあるとこ。砂浜につながってる」
「あ!九十九里の?」
「そうそう。プールと海、両方行けるよ」
「おおー!楽しみ!俺プール大好きなんだよ。ウォータースライダー乗りまくろう!」
「あはは、そんなにはしゃいでかわいいなぁ」
「翔也よく俺のことかわいいって言うけど、本当感性変わってると思うよ」
「…ツバキくんからは言われなかったの?」
「うん?ツバキ?」
突然椿原の名前を出されて驚いた。でも椿原のこと知りたいって言ってたし、あんまり気にせず話を続けていいのかな。
「ツバキはそんな甘い言葉使わないよ」
「そうなんだ?えっと……景太はどっちのがいいの?」
「ええ?そりゃ褒められたら嬉しいよ。人間みんなそうでしょ」
「景太は、ツバキくんのどこが好き…好きだったの?」
「………」
いつのまにか、佐瀬は足を止めていた。何と答えるべきか迷って佐瀬を見つめていると、急にはっとした顔をした。
「あ、えっと…俺は参考にしたかっただけだよ。でも今の質問は取り消しで」
「取り消し?」
「うん。蜂谷が言ってたんだ。ツバキくんの話題はなるべく出しちゃだめだよって。相手を困らせるような発言をすると、好感度が下がっちゃうって」
「また蜂谷…?」
蜂谷は佐瀬にどれだけ助言してるんだろう?いちいち蜂谷の名前を出しちゃうのが佐瀬っぽいけど。
「蜂谷の言うことなんて気にしなくていいよ」
「でも、蜂谷が言ってることは正しいと思う」
「うーん…でも…」
たしかに蜂谷は間違ったことは言ってない。蜂谷の助言は、要は「思いやりを持て」ということだ。それは俺が求めていたことでもあるんだけど…このもやもやした気持ちはなんだろう。
「駅着いたね。時間あるから何か買ってく?」
「ん?俺は別に」
いつのまにか駅前まで歩いていた。いつも通学で使ってる駅に夏休みに来ると、なんだか解放感があって楽しくなってくる。
「景太、なんかにこにこしてるね」
佐瀬は俺の顔を覗きこんだ。
「プール好きだから」
「景太は海よりプール派なんだね」
「海だって好きだよ!でも俺絶叫系好きだからさ、ウォータースライダーが超楽しみなんだよ」
「覚えとくね」
「覚えてどうするの?」
「次は遊園地におびきだす」
「いいね遊園地!それならもっと大人数で行ってもいいかもね」
「一体誰を誘うの?」
「え?うーん…」
よく考えたら、俺と佐瀬の共通の知り合いって、全体的に仲が悪いじゃないか。誰を呼んでも揉めること間違いなし。
「翔也と2人で行くのが一番だね」
「わーい!」
佐瀬ははしゃいで両手を挙げ、かばんを地面に落っことした。
「君は小学生かー?」
「えへへ」
かばんを拾って渡してやると、佐瀬は少し照れた様子で受け取った。
1時間ほど電車に揺られ、最寄駅に着いた。さすが夏なので、遊びに来た人達がたくさんいるようだ。
「翔也!早く海行こう!」
「あ、うん。えっと…その前に行きたいところがあるんだけど」
「え?どこ?」
「ついてきて」
「うん…?」
佐瀬は海と反対の方向へすたすたと歩いていった。口数が少なくなった佐瀬に違和感を覚えつつ、けっこうな距離を歩いた先にあったのは、大きな高級リゾートホテルだった。
「え……なんでホテル…?」
「うん…とにかくついてきて」
「ちょ、ちょっと…」
佐瀬は有無を言わせずホテルの中へ入っていく。
……まさか宿泊するつもりなのか?
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