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解決
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佐瀬と海へ行ってから数日後、俺はお土産を持って椿原の家へ向かった。
インターホンを鳴らすとうんざりした顔で椿原が出てきた。
「川名は事前に連絡するってことを学ばないわけ?急に来られても困るんだけど」
「連絡したら、来るなって言われるかもしれないし」
「拒否されたら来るなよ」
「せっかくお土産持ってきたのに〜」
「じゃあここで受け取るから帰れよ」
「おじゃましまんもす」
「あ、こら!」
来るな来るなと言われても、小学生の頃から出入りしてたから抵抗なく入ってしまっている。たぶん目を瞑ってても椿原の部屋まで行けるだろう。
「おー…なんか混沌としてる」
椿原の部屋は、よくわからない実験器具や液体が、前見た時より更に散らかっていて、うっかり動くと何か壊してしまいそうな様子だ。
「テキトーに座って。こっちの方なら床も空いてる」
「おーありがと。はいこれお土産」
「うん……何これ?」
「砂浜で砂拾って瓶に詰めてきた」
「ごみを渡すな」
呆れた様子で文句を言いながらも、椿原は瓶を棚に置いてくれた。
「翔也と海に遊びに行ったんだ。そのお土産」
「佐瀬?もしかして、より戻した?」
「いや…まだだよ。一緒に遊んだだけ」
「そっか…」
椿原はそう呟いて目線を落とした。
「この前はありがとう。川名も佐瀬も、いてくれて助かった」
「いや、あれは俺が悪かったって。不用意に由比を連れてきちゃったから」
「川名は色々解決してくれようとしてるんでしょ?気持ちは嬉しいよ。ありがとう」
「…あのさ、そのことも含めて、ツバキに相談したいことがあるんだ」
俺は背筋を正し、本題に入ることにした。椿原は頬杖をついて俺を見上げている。
「俺さ、翔也ともう一度付き合おうかなって思ってる」
「…そうなの?」
椿原は少し不安げに問いかけた。
「ツバキには迷惑かけたし、翔也は変なところもあるけど…でもやっぱり好きだなと思って。脆いところも、俺が支えてあげたいな…とか」
「そっか。俺は良いと思うよ。佐瀬は結構頼りになるし、何より川名のことが大好きだから…」
「それはツバキの本心なの?」
「え…?そうだよ…もちろん。川名のことは好きだから、幸せになってくれたら嬉しいよ」
「じゃあ、ツバキも俺と一緒に前へ進もう」
「前へ…?」
俺はスマホを取り出し、由比とのメッセージのやりとりを開いて見せた。
「由比が、番を解消するって言ってる。一緒に病院へ行って、解消しよう。そのかわり、椿香水を作るのはもうやめてほしい。全部終わったら、俺は翔也とよりを戻す」
「………」
椿原はスマホ画面を凝視している。
「…なんで突然、由比はこんなこと」
「この前のことがあって反省したんじゃない?自分で制御できない衝動に襲われたから」
「そうかな…」
椿原は納得できない様子で首を傾げた。たしかに俺も、由比の急な心変わりは謎だ。でも理由がなんであれ、解消できるならいいことだと思う。
「椿香水を作るのはやめないよ」
「じゃあ俺も翔也とは付き合わない」
「なんで?付き合いなよ。俺が椿香水を作ることと、川名の恋愛は何も関係ないじゃんか」
「わざと関係づけてるんだよ。ツバキは俺が翔也と付き合えば安心するんでしょ?俺はツバキに椿香水を作ってほしくない。だから交換条件」
「何それ。俺に椿香水を作らせないために、佐瀬と付き合うってこと?そんなの佐瀬に失礼だよ」
「違う。一緒に前に進もうって言ってるんだよ。俺はツバキへの未練を捨てて、ちゃんと翔也と向き合う。ツバキは由比から解放されて、αへの復讐を中止する。そういう風に生きる方がいいと思わない?」
「……健全だね」
「そうだよ。俺たち2人とも、中学時代のしがらみとはお別れしよう」
「………」
椿原はスマホをぼんやり見つめている。
強引なことをしているのも、佐瀬に言えないようなことを話しているのも自覚している。だけど俺にはこれしか思いつかなかった。椿香水の製造をやめてもらう方法は。
「……ちょっと時間が欲しい」
「うん」
椿原は深呼吸をして、スマホから目を離した。
「今度は、上手くいくといいね。佐瀬と」
「大丈夫だよ。翔也は頑張ってるし、目の前でストーカーのアプリも消してくれたし」
「そうなんだ…?」
「高跳びもやりたいって言ってた。もしかしたら陸上部に戻ってくれるのかも」
「よかったね」
そう言いつつも、椿原の顔色は良くない。
「ツバキ、大丈夫?」
「何が?」
「顔色悪いから」
「……寂しい」
「えっ?」
椿原は俺の服の袖をつかんだ。
「やっぱり寂しい。川名が佐瀬と付き合うのは」
「ツバキ…」
思わず椿原の手を握ろうとしたら、はっとした様子で強く振り払われた。
「ごめん。なんでもない」
「どうして寂しいのに振り払うの?」
「…俺は、1人で生きていきたいんだ。もうあんな思いはしたくない」
椿原は立ち上がり、部屋のドアを開けた。
「今日はありがとう。また連絡するから、もう帰って」
「ツバキ……俺たち何があってもズッ友だからな!」
「はあ?またそれ?ははは…」
やっと笑顔になった椿原を見て、俺もにこっと笑った。
「じゃあな。連絡待ってる」
椿原の家を出ると、ふっとため息が漏れた。
これが一番いいと思っていた。
椿原は俺が佐瀬と付き合うことを望んでたし、番はきっと解消したがってた。俺は椿香水を作るのをやめてほしい。佐瀬は俺とまた付き合いたいはずだし、俺も佐瀬のことは好きだ。
だから椿原と交渉すれば、全部叶えられて、全員幸せになると思った。
だけど椿原は寂しいらしい…。
数日後、椿原からラインが来た。番を解消するから、由比に伝えてほしいと。椿香水を作るための道具は全て廃棄したと言って、物が少なくなった部屋の写真も送られてきた。
ついに決着がつく。椿原は由比の呪縛から解放されるんだ。
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