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ちょっと引き気味の反応は気にせず、ぐいぐいと教室まで連れて行った。じゃないと絶対先に帰られる気がしたからだ。
特進教室に着きそっと中を覗くと、俺の荷物を囲むように佐瀬と蜂谷が座って何やら会話をしていた。とても入りづらい。
「ツバキ…やっぱり荷物はいいから帰ろうよ」
「川名が悪いことしたわけじゃないから、こそこそする必要ないでしょ」
「まあそうだけど…」
「財布ないとアイス買えないし」
でも今再会するのはなぁともたもたしていたら、椿原がさっさと突入してしまった。
「おじゃましまーす」
「あ……ツバキくん。もう具合悪くないの?」
佐瀬は俺の方を見ずに静かに尋ねた。
「体調は平気。佐瀬、駆けつけてくれたんだよね?ありがとう」
「ああ、うん…。4階から飛び降りるの、スリル満点で楽しかったよ」
「は?!4階から飛び降り…?」
驚いて椿原はこちらを振り返った。黙って頷くと、椿原は呆気に取られた様子で佐瀬を見つめた。
「だ、大丈夫なの?怪我してない?」
「そんなことより、蜂谷からツバキくんにお話があるって」
「えっ」
声を漏らしたのは蜂谷だった。蜂谷は佐瀬を見上げて、ボソッと言った。
「…別に話すことなんてないけど」
「ないの?本当に?」
「………」
蜂谷は渋々といった様子で椿原に向き直った。
「……さっきのことは、ごめんなさい」
「そんな形だけ謝罪されても、逆に迷惑だよ」
椿原は意識的な笑顔を作ってそう答えた。
「…だってさ、翔也」
「じゃあ迷惑かけてごめんなさいしないとね」
「めーわくかけて、ごめんなさい」
「ループするな!」
「……あのさ、勘違いしてるみたいだけど、翔也が命令したわけじゃないから」
蜂谷はぶすっとした表情で俺を見てそう言った。
「僕が勝手にやったんだ。ゆうくんに椿原を襲わせて、それを由比に助けさせて、2人がくっつくように仕向けるつもりだった」
「いや……なんで?目的が全然わかんない」
「翔也を応援しようと思ったんだよ。椿原が他のやつと付き合うことになれば、お前は翔也と向き合うしかなくなるから」
「俺と翔也が付き合うの、散々嫌がってたのに」
「今まで翔也に自分の理想を押し付けてたなって反省したから…」
「蜂谷って、俺と由比の関係性を知ってるの?なんで?」
椿原が冷たい口調で口を挟んだ。
言われてみれば確かにそうだ。蜂谷にそんなこと話してないのに。
「それは……聞いたから」
「誰に?」
「………」
蜂谷は黙りこみ、俺と椿原の視線が佐瀬に向けられた。
「え…内緒だったの?ツバキくんと由比くんが番だってこと」
佐瀬は全く悪気のなさそうな顔で俺と椿原を見た。
「内緒とは伝えなかったけどさぁ、なんで蜂谷に言ったの?」
俺が尋ねると、佐瀬は蜂谷の腕を掴んで言った。
「俺と蜂谷、仲直りしたから。だから俺の恋のお悩みを聞いてもらっただけ」
「お、お悩み…」
「どうしたらツバキくんと景太が離れてくれるかなって相談したら、由比くんとの関係をどうにかすればいいんじゃないって。だから由比くんを説得して、番を解消させたんだ。ツバキくんの弱点がなくなれば、俺がそばにいてあげなきゃ!っていう邪魔な正義感はなくなるでしょ?」
「翔也の世界は、いつだって自分が中心にいるんだな…」
「うん?どういうこと?」
「……佐瀬、ありがとう。動機はなんであれ、佐瀬のおかげで俺は番を解消できたんだね」
椿原は佐瀬に頭を下げた。佐瀬は何か返事をするわけでもなく、ぼんやりと椿原を眺めている。
「佐瀬が望むなら、俺は川名から離れるよ。君らを邪魔する気は…んむっ?」
佐瀬は唐突に椿原の唇をつまんだ。
「ツバキくん、うるさい」
「は?!」
「そういう中途半端な遠慮はよくないと思う」
「中途半端って…」
「そうやっていちいち俺はいいよ、気にしないでみたいなこと言うから、景太はツバキくんのことが気になっちゃうんでしょ。本当はどうしたいの?いい人ぶって好感度上げたいの?」
「なっ……え……?」
椿原は口をぱくぱくさせながら俺を見た。
「俺は…川名に幸せになってほしいだけだよ」
「だったらツバキくんがやれば?ツバキくんが景太の恋人になって、一緒に幸せな生活とやらを送ればいいじゃん」
「でも俺じゃ…」
「腹立つ」
佐瀬は子どもみたいにぷいっとそっぽを向いた。それを見た椿原は大きなため息をついた。
「なんで俺が責められてるの?被害者なのに」
「…僕もう帰っていい?川名が頂点の三角関係なんて鼻くそ付いたティッシュより興味ないし」
諸悪の根源であるはずの蜂谷は、この上なくふてぶてしい態度で立ち去ろうとしている。
「待てよ蜂谷」
椿原が呼び止めると、蜂谷は黙って振り返った。
「俺、今回は許すよ。蜂谷のことも、山内のことも。だからもう、こんなことはしないでほしい。自分の思い通りにしたいときに、誰かを襲わせるって方法をとるのはよくないよ」
「……悪かった」
蜂谷は聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそう言って、逃げるように教室を出ていった。
3人が残された教室で、佐瀬が口を開いた。
「じゃあ、今日は解散だね。2学期もお互い頑張ろうね。さようなら〜」
「翔也、ごめん。あの時は冷静じゃなくて、真っ先に翔也を疑っちゃった」
すーっと出ていこうとする佐瀬の前に立ち、頭を下げた。
「……いいよ!別に。結局俺が蜂谷に話したのが悪かったんでしょ?」
「それはそうだけど、ごめん。俺、今日はそもそも翔也に話したいことがあったんだ」
「ああ、そうだったね。なんだったの?」
「うん……翔也と、また付き合いたいと思ってて」
「え?!」
佐瀬はかなり大きな声を出し、ぱっと口に手を当てた。
「ほ、本当に?なんで?」
「一旦離れただけのつもりだったし。翔也はもう、ツバキを傷つけたりしないでしょ?だからもう一回付き合いたい」
「そう……」
佐瀬は目線を椿原の方へ向けた。
「あ…これ告白だよね?俺、同席してる場合じゃないよね」
慌てて立ち去ろうとする椿原を見つめながら、佐瀬はつぶやいた。
「……保留で」
「え?保留って?」
「考える時間をあげるよ」
「翔也はもらう側では…?」
「ツバキくんに言ってるんだよ」
椿原はぴたっと立ち止まり、振り返って佐瀬を見た。
「なんで俺?」
「1ヶ月後、文化祭が終わるまでに、ツバキくんが景太に告白しなかったら、俺は景太と付き合う」
「え…なにそれ」
「もう決めたから。保留!保留ー!」
佐瀬は両手を挙げてぶんぶんと振った。
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