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文化祭開始!
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その日以降、椿原とは気まずくなってしまった……となるかと思いきや、次の日から特に今までと変わらない関係が続いていた。
「ついに今日が文化祭か〜楽しみだね!」
文化祭当日、一緒に登校しながらそう話を振ると、椿原はにこっと笑った。
「そうだね。店番じゃない時間、一緒に回る?」
「おー!もちろん!どこ行く?俺は翔也の劇さえ見られればあとはどこでも」
「…劇?」
「うん。白雪姫の王子様やるんだって。それで俺に告は……あ、えっと…どこでやるんだろ」
「特進教室じゃないの?」
「劇やるなら、体育館とか使うのかなーと思って。パンフ見ればわかるか」
告白のことを言いかけてしまったけど、椿原の顔色は全く変わらない。気づいてないのか気にしてないのか…。
「翔也、王子様の衣装で俺に告白の返事をするんだって」
「なぜに言い直したの?」
椿原は呆れた様子でツッコんだ。
「ツバキの反応が気になって。あの日のことが何にもなかったような感じでしれーっとしてるから」
「いいでしょ別に。俺は毎日を楽しく過ごすと決めたんだ」
「ふーん」
「どうするの?劇の途中で公開告白されたら」
「きゃ〜伝説のカップルになっちゃう」
「恥ずかしいヤツらだ」
椿原はつまらなそうに呟いた。
「じゃあツバキは、理想の告白シチュエーションってある?」
「ないよ」
「んー、卒業式の日、校舎裏で制服の第二ボタンをもぎとるやつとか」
「捨てづらいゴミが増えるのは嫌だ」
「ゴミ扱いするなよ〜!」
「告白の仕方なんて何でもいいじゃん。大事なのは心が通じ合ってるかどうかでしょ」
「ははぁ、やっぱりツバキはロマンチストさん」
「うざあ」
「…ていうか、する方なの?」
「は?」
「第二ボタンもぎとる方って、告白する方でしょ?理想の告白シチュエーションっていったら、普通どうやって告白されるのか考えない?」
「じゃあ、川名は?どう告白されたいの?」
「俺ぇ?」
質問に質問で返されてしまった。告白された経験なんて、佐瀬しかない。山内から助けてもらって、全裸のまま走って家まで連れて行かれて、性奴隷にはできないから彼氏じゃだめ?って…
「なんでにやにやしてるの」
「えっ、うーん、ちょっと楽しかったこと思い出しちゃって」
「へえ…」
うっかり顔に出ていたらしい。努めて表情をリセットし、うんうん頷きながら答えた。
「好きな人から告白されるなら何でも嬉しいね」
「パクんな」
「いいじゃんかぶったって〜!」
「川名が言い出したくせに。理想の告白シチュエーションって」
「えっと、じゃあ、あれだな!俺のこと、すっごい褒めながら告白されたらめちゃくちゃ嬉しい!」
「褒められたいんだ?」
「褒められたら嬉しいじゃん」
「川名のそういう単純なところ、生きやすそうでいいと思うよ」
「ん?それ褒めてるの?」
「何事にも疑問を持つ姿勢が素晴らしい」
「あ、こいつ茶化してるな」
「察しがいい男はモテるよ」
「おいおいもういいって」
「優しくて、素直で、正直で、ポジティブで、一緒にいるといつも楽しい」
「……えっと…」
真意が掴めず返答に困っていると、椿原はにやっと笑った。
「褒められたら嬉しいんじゃないの?」
「だってタイミングが…」
「告白なんかしないって。川名で遊んでるだけだよ」
「んんん?!」
なんてひどいヤツだ。このまま告白されたらどうしようと焦ったのに。
「ツバキのばーか」
「あはは。川名は思ってること全部顔に出るよね」
「俺はポーカーフェイスだ」
「冗談でしょ?あはははは」
「うーわムカつく!!!」
椿原、一体どうしたんだろう。こういう系の話題で変な冗談を飛ばすのは珍しい。
「ところで川名、商品ちゃんと持ってきた?」
「ん?うん。ばっちし」
フリマの商品について聞かれたので、俺はポケットからちょっとへたっとしている紙を取りました。
「え…『川名が何でもする券』?君は小学生か?」
「へたり具合にノスタルジー感じて」
「これいくらで売るの?」
「1000円」
「高いよ!売れないよ絶対」
「ツバキは何持ってきた?」
「椿香水」
「えっ、本気で?あの香水を広めようとしてるわけ?俺止めたよね?」
「俺の体液は入れてないから」
「まさか翔也のおしっこは入れてるの?!」
「そういう意味じゃないわ!何にも変なもの入ってないただの香水だよ。せっかく香水の作り方を身につけたから、何かに活かしたいと思っただけ」
椿原はそう言ってカバンの中から透明な小瓶を取り出した。渡されて嗅いでみると、甘くて柔らかい匂いがした。
「わー、いい匂い」
「でしょ?俺のオリジナルブレンド」
「どうやって作るの?」
「エタノールと精油を混ぜるんだよ」
「へえ…?1本ちょうだいよ」
「買ってよ。1000円ね」
「じゃあ川名が何でもする券と交換だね」
「そんな紙切れと俺の香水を一緒にするな!」
ひどい。何でもする券なのに。
教室は昨日のうちに文化祭仕様になっている。…とはいえ、うちのクラスは机を並べただけで、その上にそれぞれが商品を置くスタイルだ。俺と椿原は午前中に仕事が入っていて、午後一緒に回る予定。椿原は店番で俺は呼び込み係だから、午前中は別行動だ。
「川名呼び込みだよね?目立つようにこれかぶってよ」
そう言ってクラスメイトに手渡されたのはうさ耳カチューシャだった。
「えっ嫌だ。そんなに目立たないのに恥ずかしいじゃん」
「じゃあバニーガールの衣装でも着る?」
「そんなもの着たら俺の色気が爆上がりして大変な騒ぎになるだろ?」
「へー」
抗議も空しく俺はうさ耳をつけて段ボールの看板片手に学校をうろつくはめになった。
「ツバキ〜、俺うさぎちゃんにされちゃったよ〜」
黙々と商品を並べている椿原に泣きつくと、鼻で笑われた。
「よかったね。可愛くなったよ」
「いや棒読み…」
「写真撮ってあげる」
「いらんて〜!」
椿原は俺にスマホを向け、パシャリと写真を撮った。
「川名、うさ耳ごときでそんなに恥じらっとるの?そんなん遊園地行ったらみんなつけとるようなやつじゃん」
悲しげに訛ってる三川くんに話しかけられて振り向くと、三川くんは女子の制服をびしっと身につけていた。
「わあ…ありがちだけど…」
「うちの高校卒業した姉がいるって言ったら制服持ってこいって言われてこのザマ」
「君は全然似合わんねぇ…」
「そんなことより、写真なら俺が撮ってあげるから2人並びんよ」
「え、本当?やったねツバキ」
椿原の隣に並ぶと、ふわっと甘い匂いがした。どうやら自分でも香水をつけてるらしい。
撮ってもらった後椿原を見ると、なぜかうさ耳をむぎゅっと握られた。
「ん?どうしたツバキ?」
「可愛いから」
「またそんなこと言って」
「本当だよ」
椿原はそう言って、俺の手首に椿香水をプシュッとつけた。
「あ、ありがとう…」
「じゃあまたお昼に会おうね」
高校生活2度目の文化祭が始まった。正直言ってそんなに学校行事に精を出すタイプではないけど、始まってしまえば楽しいものだ。今年は佐瀬のこともあるし…。
うさ耳をキュッとかぶり直して、俺は教室を後にした。
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