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招かれざる客
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知り合いに遭遇する度にうさ耳をからかわれながら、俺はたらたらと呼び込みをした。交代の時間は12時。どのクラスを見に行こうかな。椿原はどこか行きたいところがあるんだろうか?
「うーさぎさん」
「あーはいはい、似合わないうさ耳つけて悪かったな」
全く本日何度目だ。教室に戻ったら絶対に文句言ってやる。
そんなことを考えながら横を見ると、思ってもみなかった人物が立っていた。
「や…八雲さん…?」
「あ、覚えててくれたの?ありがとう」
佐瀬の父親の夫、吉岡八雲。夏休みに連絡先を交換させられて以来、一度も交流はなかったのに、なぜか今隣でにこにこしている。
「なんでここに?」
「ふふ。君らの高校が文化祭だって知って、見に来ちゃった」
「高校名とか言いましたっけ…?」
「検索したらすぐわかったよ。翔也くん、全国大会優勝とかしちゃってるからね」
「はあ…」
「川名くんやその友達のSNSアカウントもわかったから、今どこにいるのかなーっていうのもなんとなく。翔也くんはやってないみたいだからわかんなかったんだけど…」
「…は?!」
八雲はなんでもないような様子で笑っている。こいつ、ネットストーカーじゃないか。
「うちの文化祭、関係者以外立ち入り禁止ですよ。帰ってください」
「俺は川名くんの友達だから、関係者だよね?」
「友達じゃないです」
「えー?この前は友好的な感じで会話ができたし、連絡先も交換したからもう友達でしょ?」
「友達じゃないし、そもそも友達でも無理です。生徒の家族しか入れないんで」
「んー?そっか」
八雲は首を傾げて何か考え事をしている様子だったが、やがてにこっと笑った。
「じゃあ、入れるね。俺は翔也くんの父親だから」
「いや…何言ってるんだか」
「吉岡はどうして翔也くんを認知しなかったんだと思う?」
「……はい?」
「自分の子どもじゃないからだよ。佐瀬ちゃんが妊娠したって知った時、俺が吉岡に勧めたんだ。DNA検査してみたらどうかって。そしたら他人ですって出たの。当たり前だよね、翔也くんは俺と佐瀬ちゃんの子どもなんだから」
「………」
一体…この人は何を言ってるんだ?
話が理解できず右から左へ流れていく。
「ねえ、翔也くんはどこ?」
八雲は友達の居場所でも尋ねるみたいに気軽な口調で言った。
「か…帰ってください」
「翔也くんは吉岡に会いたいわけじゃなくて、父親に会いに来てたんでしょ?だったら本当は俺と会うべきだったよね」
八雲の言葉で夏休みの出来事を思い出し、ふと気づいた。
「翔也と吉岡さんは顔がそっくりでした。自分が父親っていうのは、八雲さんの思い込みじゃないですか?」
「ああ…俺もびっくりしたよ。つまりさ、翔也は俺と吉岡の子どもってことにしてもいいわけだよね?」
「はあ?」
話の方向がどんどんおかしくなっていく。八雲さんはおそらく正気じゃないんだ。この前偶然会った時はこんなに変じゃなくて、むしろ常識的な人物に見えたのに…
「…先生呼んできます」
「えー?ひどいな川名くん」
その場を離れようとする俺の手を八雲が強くつかんだ。
「離してください」
「やだ。翔也くんのところに案内して」
「翔也は繊細なんです。あなたに会わせられるわけ…」
「大丈夫大丈夫。翔也くんも俺に会いたいんだから」
「いや、だから…!」
「川名?どうしたの?時間になっても来ないから、様子見に来たんだけど…」
八雲は意外と力が強く、本格的に困ってきたところで、椿原に声をかけられた。一瞬緩んだ隙をついて腕を振り解くと、八雲は走って逃げていってしまった。
「あ…」
「知り合いなの?」
椿原は不思議そうに八雲の去っていった方角を見つめている。
「知り合いっちゃ知り合いだけど…まあ、不審者というか…」
「大丈夫?とりあえず先生に報告しよう」
「…だな」
大事にはしたくないけど仕方ない。
佐瀬のところに行ってないといいけど…。
椿原と一緒に職員室へ行き、先生に報告した。不審者がいたら対応するって言ってたけど、人も多いしどうなることか。
「よし、ご飯食べよう。お腹空いた」
椿原は笑ってお腹を叩いてみせた。
「購買で文化祭特別弁当売ってるらしいから見に行こうよ」
「そんなのあるんだ?ていうかせっかくだから屋台とか出せたらいいのにね?焼きそばとか定番じゃん」
「飲食の出し物禁止だもんね。衛生管理が大変なんじゃない?」
「あーたしかに。冷蔵庫もそんなにないし」
ドラマの中の学園祭は屋台を出してることが多いけど、現実はそうはいかないらしい。それとも、私立高校だとやれたりするんだろうか?
まあ俺は購買の弁当で十分お祭り気分だけど。
ご飯を食べ、気になるクラスを回り、最後に特進教室へ辿り着いた。あと10分ほどで最終公演が始まるらしい。
「お、間に合った〜。結構人いるね。早く入ろう」
人混みの中椿原を振り返ると、少し後ろの方でぼーっと教室の窓を見つめていた。
「ツバキ?どうしたの?」
「あ…ううん。ちょっと…入るのが怖くて」
「え?何で?」
「由比、いるかなーと思って…」
「あー!そういえば由比もこのクラスじゃんね?!」
佐瀬のことしか考えてなくて、すっかり見落としていた。もう前みたいな事件は起こらないだろうけど、やっぱり会いたくないよな…。
「えっと…ごめん。佐瀬に観に行くねって言ったから、俺は観たいんだけど、ツバキはこっから別行動とか…」
「…ま、でも生徒会長だし、クラスのことなんてやってないと思うし」
椿原はそう自分に言い聞かせるようにして頷き、ずんずんと教室のドアに進んでいった。慌てて追いかけて一緒に教室へ入ると、すぐ目の前に由比がいた。
「…………」
「…………」
2人とも無言の奇妙な時間が流れているので、俺は明るくカットインした。
「やあやあ由比!何やってるの?」
「…この時間だけ、出し物の手伝いだ」
「もしかして劇に出るの?」
「出ない。最後列で佐瀬用のカンペを出す係だ」
「何その係……あ、じゃあツバキ、前の方行こう。さっさと由比から離れよう」
「…うん」
椿原はぷいと顔をそらし、すたすたと空いている席へ進んだ。
「なんでこのタイミングで会っちゃうかな…」
2人分の席を確保してくれている椿原を横目に、俺はこっそり由比に話しかけた。
「佐瀬に頼まれた。川名が来る回では台詞を間違えたくないからカンペを出してくれって」
由比は仏頂面でそう答えた。
佐瀬に悪意があるのかないのか…まさかこの2人を鉢合わせさせようとしたわけじゃないよなぁ。…いや、何でもかんでも疑うのはよくないか。
少し反省して席に向かおうとすると、由比に肩をつかまれた。
「ちょっ…何だよ」
「川名に渡したいものがある」
「はあ?」
由比は恐ろしく真剣な顔でポケットからくしゃくしゃの紙を取り出し、俺に押し付けた。仕方なく開くと、そこには「川名が何でも言うこと聞く券」と書かれていた。
「それ買ったの?!」
「ああ。ちゃんと聞いてくれるよな?」
「えー…まあ常識の範囲内なら」
「椿原のことを幸せにしてくれ」
「お前どういう立場で言ってんだ!」
「ひゃんっ!」
由比のすねを蹴って、椿原の隣の席についた。
「何話してたの?」
「んーと…何でも言うこと聞く券を買ったらしい」
「変なの売るから変なのが寄ってくるんだな」
「由比は予想外すぎる…」
精神が不安定なんだろうか?前までの由比だったら絶対買わないだろうに。
しばらくして劇が始まった。
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