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「先生、早く!こっちです!」
いつのまにか、椿原が先生を連れてきてくれていた。
「あーあ。せっかく来たのに翔也くんは俺に興味なしか」
八雲はずんずん近づいてくる先生たちを見ながら呟いた。そして俺の方を向いてにこっと笑った。
「色々迷惑かけてごめんね?捕まると面倒だから逃げます」
そう言って人混みの中をすごい速さで走り去ってしまった。
「変な人だねー」
佐瀬は他人事みたいに背中を見送っている。
「ごめん翔也。俺が八雲さんと接触しちゃったせいでこんなことに…」
「元はと言えば俺の父親が確定してないせいだし」
「おお…」
反応に困ることをずばっと言われた。佐瀬いわく父親イベントはもう終了したそうだから、本当に気にしてないのかもしれないけど…。
すぐ近くに空き教室があったから、3人で入った。
「さっきちょっと言ったけどさ、俺色々考えて頑張ったんだよ」
佐瀬は早速会話を再開した。
「お父さんに会ったのもその一環って…」
「ああ、うん。そこまで話すつもりなかったんだけど、その通りだよ。父親に会うのもツバキくんを助けたのもストーカーウェアを削除したように見せかけたのも嫉妬心を抑えたのも全部景太と付き合うためだよ」
「えっ?なんか今1個とんでもないこと聞いた気がするんだけど?」
俺のスマホの情報、未だに佐瀬に垂れ流し状態なのか。最近の技術はすごいな。
「努力の甲斐あってさ、景太はもう一度俺と付き合おうかなーって気になってきたでしょ?」
「うん…」
「でもその努力のおかげで気づいちゃったんだ。これは続かないって」
「……え?」
「ツバキくんを受け入れながら景太と付き合うのは、景太と別れるよりしんどい。だからいっそ2人が付き合うように仕向けても、意気地なしのツバキくんは奪おうとはしない」
佐瀬は壁にもたれて椿原を見ている。
「どうして遠慮してるの?本当は友達じゃなくて、恋人になりたいんでしょ?」
「…佐瀬は全然わかってない」
椿原はぽつりと呟いた。
「川名が好きなのは、俺じゃなくて佐瀬だよ。俺が厄介なことに巻き込まれるから助けてくれるだけで…」
「はいはい。じゃあ景太が選んでよ。一生俺に束縛されるか、解放されてツバキくんと付き合うか」
佐瀬の視線は真っ直ぐに俺を向いている。椿原は俯いていて表情がよくわからない。
「極端だなぁ、翔也は」
俺は正直な感想を述べ、佐瀬に近づき手を握った。
「俺は翔也を選ぶ。ツバキとは距離を置く」
「え…?」
「…それで上手くいくかな?」
佐瀬は黙って俺を見つめている。
「ツバキと縁を切ったとしても、俺の心の中の一部はたぶんずっとツバキを向いてるよ」
「………」
「それってそんなにダメなこと?ほかに大切な人がいたとしても、お互いのことを一番愛してるならそれでいいじゃんか」
「景太はちょっと違うよ」
「え?」
「心の中の一部なんて言ってるけど、景太は肝心な時絶対ツバキくんを優先する。本当は俺の方が一部なんじゃない?そういう景太の無意識を感じるのが耐えられない」
「…そんなことない」
「まあ、いいや」
佐瀬は口角をぐっと上げた。
「とにかく俺は一旦降りるから」
「翔也…」
「君らがケンカして愛想尽かした頃に、俺は景太を奪いに行くね。景太は俺のことも、心のどこかで想い続けてくれるんだよね?」
佐瀬は早口でそう言って、さっさと教室を出て行ってしまった。
2人きりの教室で、俺たちは顔を見合わせた。
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