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「追わないの?」
椿原は佐瀬が出て行った方向に視線を向けた。
「ああ…」
教室の出口まで歩いて行ったが、そこで足が止まってしまった。
追いかけて…どうするんだろう?佐瀬の気持ちに、俺は応えられるのか?
「今行かなかったら、もう終わりだよ」
椿原の声が後ろで響く。
「そんなのだめだよ。佐瀬のこと、好きなんでしょ?」
「…うん。俺は、翔也が好きだ」
俺は振り返って、椿原の前に立った。
「でも今はここにいたい」
「川名…」
「いてもいい?」
「俺が…断れるわけないじゃん…」
椿原は机に腰掛けて下を向いた。俺は一歩前に進み、椿原を抱きしめた。
「最悪…最悪だ…」
俺の腕の中で、椿原は泣きそうな声で呟いた。
「何が最悪なの?」
「結局俺は、2人の間に割り込んで引き裂いた。最悪の略奪だ」
「そん……そうだね」
そんなことない、と言おうとしてやめた。何の中身もないフォローをしたところで、椿原の心には響かないだろう。
「でも嬉しいんだ。川名に抱きしめられて嬉しい。川名が好きだから。俺は結局、自分のことばっかり」
椿原は机から下りて俺の背中に手を回し、体を密着させた。椿原の作っていた香水の匂いがふわっと漂っている。
「好き。好きだよ川名。佐瀬みたいにかっこよくないし、俺はΩだから、一緒にいるといつか絶対迷惑をかける。だけど俺は…俺は……」
「ツバキ」
右手で椿原の頭を撫でた。椿原はより強く俺を抱きしめる。
「ツバキを見てると、愛しいって感じる」
「愛しい?」
「大きなお世話だろうけどさ、放っとけない、守りたい、大切にしたいって思う」
「俺はそんなに弱くない」
「うん。ツバキは強いから、放っとけないんだ」
「…わかんないな」
椿原はふっと笑って体を離した。
「あ…文化祭終わったね」
時計を見ると、15時を回っていた。ここからは片付けの時間だ。
「本当だ。教室戻らないと」
そう言ってすたすたと出ようとする椿原の腕を、とっさにつかんだ。
「何?川名」
「えっと……切り替え早いなと思って」
「楽しみだね。川名が何でもする券が何枚売れ残ってるか」
「悲しいこと言わないで」
何か言いたいことがある気がするのに、思いつかなくてもやもやする。
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