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椿原には断られたけど、今日は家に突撃してみようかな。近所なんだから、本当にだめなら帰ればいいし。少々強引なことをしても、きっと椿原は許してくれるだろう。
…という自分勝手な論理を組み立て、俺は椿原の家の前で様子を伺っていた。できれば椿原のお母さんが出てきてほしい。そうしたら椿原も断りにくいだろう。
♪♪♪〜
「…ん?電話…?」
スマホを見ると、椿原からの着信だった。嫌な予感がしつつも、俺は電話をとった。
「はいこちら川名」
「帰れ」
「………」
「今日は用事があるって言ったよね?」
「…でも、家にいるんでしょ?何の用事なの?」
「川名には関係ない」
「ひどくない?」
「知らない。とにかくだめ」
「あら、川名くん?うちの前でどうしたの?」
そうこうしている間に、買い物に出かけていたらしい椿原の母親がやってきた。グッドタイミングだ。
「ツバキに会いに来たんです。よかったら荷物持ちますよ」
俺は通話をぶちっと切り、椿原母の買い物袋を奪った。
「あらぁ、ありがとう。あの子最近ちょっと様子が変だから、川名くん話聞いてあげてくれない?」
「そうなんですかー?ぜひぜひ」
まんまと椿原の家に入ることに成功した。椿原が追い返しに来るかと思ったけど、部屋からは出てこなかった。
買い物袋をキッチンに置いて、2階にある椿原の部屋へ向かった。
「ツバキ、入っていい?」
「だめだ」
「入るね」
「おい!」
バタンと勢いよく扉を開けた。てっきり勉強しているのかと思ったら、椿原はベッドの上で布団にくるまっていた。
「え、どうしたの?体調悪い?」
ずんずんベッドに近づいていくと、椿原は布団を鼻までかぶって顔を隠した。
「…最近、バグってるから」
「は?何が?」
「俺の体が」
「え、それって…」
ベッドの脇に、椿原の制服が脱ぎ散らかされていた。その山の一番上にあるのは、どう見てもパンツで…
俺はベッドの隣にしゃがみ、椿原の顔を近くで見た。
「もしかして、オナニー中だった?」
「往ね」
「古語で悪態つかないでよ」
完全に嫌そうに睨んでいる椿原の頭をぽんぽんと撫でた。
「俺βだからそういうの鈍いんだけどさ、ツバキは今発情中なの?」
「いいから出てけ」
「やだよ。ツバキが冷たかった理由、ちゃんと聞くまで帰らないから」
「……だから、バグってるんだって」
「それだけじゃわかんないよ」
俺はゆっくりと布団をつかみ、椿原の隣に潜り込んだ。
「ちょ…‥何?!」
慌ててさっと壁側を向いた椿原の体を、背中から抱きしめた。
「何でも俺に教えて」
思った通り椿原は服を着ていなかった。直接伝わる体温が、すごく高くて心配になる。
「…文化祭、終わってから急にヒートが来た。まだそんな時期じゃないのに。しかもなかなか終わらない」
「そっか…体調不良とか?」
「原因はわからない。番を解消した影響かもしれないし、文化祭のときの、あれで……その、精神的なものかもしれない。昼間は抑制剤飲んでるけど、ずっと使い続けるのは副作用がキツイから、家では使わないようにしてる」
「お母さん心配してたけど」
「言ってないから」
「どうして?辛いならちゃんと話した方が…」
「うるさい!」
椿原は突然こちらを向き、思いっきり体を手で押してきた。
「え!わ、わ〜?!」
俺の体はどさっと床に落ちた。尻を打ちつけてとても痛い。
「何すんの?」
「いい加減出てけよ。川名には、一番見られたくないのに」
椿原は相変わらず布団で顔を隠しているが、呼吸が荒く目が潤んでいて、限界が近いことを感じさせられる。
「なんで?もっと俺を頼ってよ」
「1人で……するとこなんて、好きな人に見られたくない」
「2人ですればいいじゃん」
「嫌だ」
「この前のヒートの時は言ってたのに。川名とセックスしたいって」
「したいのとするのは別」
椿原は布団の端をぎゅっと握りしめている。その手の上に、俺の手をそっと重ねた。
「どうしてしないの?」
「ヒートの時の自分が……嫌いだから」
「…そっか」
椿原から離れて立ち上がった。
俺なら椿原を元気付けられないかと思っていたのに、無理だった。ヒートのことも、他人を遠ざけたい気持ちも、俺にはよくわからない。
「俺、帰るね。無理矢理家に来ちゃってごめん」
「……うん」
椿原は布団から少し顔を出し、小さく頷いた。抱きしめたい衝動に駆られたけど、深呼吸をして我慢した。
椿原の家を出ると、思わずため息が出た。
どうやったら椿原を救えるんだろう。ヒートが来る度に自分のことを嫌いながら、1人で対処するなんて、そんなの悲しすぎる。
俺がαだったら、何か違ったんだろうか…。
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