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だらだら会話するだけ
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フードコートに到着し、たこ焼き屋の近くの机でタピオカをすすりながら待つことにした。ミルクティーを飲み干し底に残ったタピオカをどうにか吸い込めないか格闘していたところで蜂谷がやってきた。
「うわこいつタピオカ飲んどる」
蜂谷はどさっと椅子に座り、足を組んだ。
「なんだよ。悪いか?」
「たこ焼きはソース味でよろしくね☆」
「かしこまりました蜂谷くん」
12個入りのたこ焼きを購入し、1個口に入れてから蜂谷に渡した。
「ナチュラルに食うな」
「ほいひ〜」
たこ焼きを食べるのは夏休み以来だ。ソースもいいけど、俺はポン酢をかけて食べるのが1番好き。
「お前の話を聞く代わりに、聞きたいことがあるんだけど」
「ん?何?」
蜂谷はスマホをすっと手に持ち、画面を見ながら尋ねた。
「翔也に未練はあるの?」
「あるよ」
「へー」
「翔也に言うの?」
「言わないよ」
「でも、翔也に聞いてって言われたんでしょ」
「うん。でも言わないもん」
「えー?」
にわかには信じがたいけど、そんなに断言するなら言わないんだろうか…。
「未練あるのに椿原と付き合ってるの?」
「付き合ってない」
「あれ、そうだっけ?」
昨日「くそくそどうでもいい」と言った話を、蜂谷はスマホを見続けながら興味なさげに蒸し返してきた。
「フラれたのは自分のせいだし、別れた方が翔也のためになるだろうし、ツバキのことは好きだけど、翔也がいないのは寂しい」
「川名はあくまでも2人とも好きなんだっていう主張を崩さないんだね」
「そんなに変?好きな人が複数いるのって」
そう聞くと蜂谷は初めてスマホから顔を上げ、真顔で答えた。
「世の中には、浮気する人も不倫する人もたくさんいるわけじゃん。だから変じゃないと思うけど、開き直って主張することではないし、こんなクソ野郎を好きになった翔也も椿原も不憫だなと思う」
「毒舌…」
蜂谷は再びスマホに目を向けた。
「まあ、お前らの恋愛模様なんてどうでもいいや。そんなことよりもう1つ質問なんだけど」
「何?」
「なんで君らは両思いなのに付き合ってないの?俺に遠慮してるの?」
「…え?蜂谷に?」
質問の意図がつかめず戸惑っていると、蜂谷はテーブルの真ん中にスマホを置いた。つられて画面を見ると、佐瀬と通話中になっていた。
「……えーっと、通話中?」
「うん」
「全部聞いてるってこと?」
「うん」
「翔也には言わないって言ったじゃん」
「言ってないよ。たまたま電話は繋がってるけど」
「えー…?」
「翔也はどうしても、結末が知りたいんだって。自分が降りた恋の結末」
電話越しの佐瀬は沈黙している。佐瀬の方も、通話中なのをあっさりバラされるとは思ってなかったんじゃないだろうか。
「お互い告白してハグしたのに、今日ツバキに俺たちは付き合ってないって言われた」
「じゃあ付き合ってって言えば?」
「ツバキが恋人になりたくないなら、別にそれでいい。俺がやることは変わらないし」
「やることって?」
「ツバキを支えたい。だから蜂谷に話を聞きにきた」
「僕の話ねぇ…」
蜂谷はスマホをタップし、通話を終了させた。
「…いいの?電話切っちゃって」
「僕としては、翔也とお前らがこれ以上関わってほしくないの。恋人になっていちゃいちゃしてますとでも言ってくれれば、翔也も興味を失うと思ったから、電話で中継してあげたのに。いちゃいちゃどころか付き合ってもないなんて」
「奥手なんだよ俺は」
「嘘つき!」
蜂谷は勢いよくたこ焼きを突き刺した。
「僕に何が聞きたいの?」
「質問というより、相談って感じなんだけど…ツバキに関して」
「え…なんでそれを僕に?恋愛相談なんて、友達にすればいいのに」
「消去法でさぁ」
「は?」
「ツバキと俺の関係を知ってるのって、翔也とゆいゆいと蜂谷しかおらんのよ。翔也には話せないし、由比は論外。蜂谷ならΩのことも詳しいから」
「……まあいいや。椿原誘拐の件で迷惑かけたし、たこ焼き分くらいは聞いてあげる」
蜂谷は呆れながらも頷いた。
佐瀬が絡まない件ならなんだかんだ聞いてくれるだろう、というのも計算のうちだ。
「昨日ツバキの家に遊びに行ったら、ヒート中だからって言って追い返されたんだよ。ヒートの時の自分が嫌いだから、俺とはセックスしたくないんだって」
「ああ…あいつは潔癖人間だもんね」
「ヒートって、とにかく目の前の人とヤりたくなるんだと思ってたけど、そういうわけじゃないの?そういう本能を凌駕するほど、俺とはしたくないってこと?」
「…椿原の心情は知らんけど、川名がαだったらやってたんじゃない?したいしたくないに関わらず、αは特別だから」
「特別って?」
「意志というより反射だよ。空腹の時に食べ物が出されたらよだれが出てくるのと同じようにセックスをする。βやΩが相手なら、ムラムラするのは変わらないけど、どうしてもこの人が欲しいっていう状態にはならない」
「うん…」
「いいじゃん。椿原はトラウマ持ちだから、β相手のほうが居心地良いんでしょ」
何も言えずにうつむいていると、蜂谷はぐっと体を寄せ、顎をつかんで顔を上げさせた。
「何?そんなにやりたかったわけ?」
「うん」
素直に肯定すると、蜂谷は少し嫌そうな顔をした。
「翔也と別れてすぐのくせに。性欲大臣め」
「性欲っていうか…ツバキはもっと楽しく生きればいいのになと思って。セックスって本当は、楽しくて幸せなものでしょ?トラウマのままだなんて悲しいよ」
「…まあ人によるんじゃない」
会話しながらも、蜂谷はたこ焼きを半分食べ終えていた。小さめの体なのによく食べるんだな。
「川名ってさぁ、めんどくさい男が好みなの?」
「えっ?どういうこと」
「翔也と椿原って全然似てないけど、めんどくさいっていう点では共通してるから」
「別にそういうわけでは…」
「めんどくさい男が好きなんじゃなくて、めんどくさい男に好かれやすいのかな。いやむしろ、川名が相手を拗らせさせてるのかな」
「2人ともめんどくさくない」
「嘘つき川名くん。スムーズにいかないから僕なんかにお悩み相談してるくせに」
「…じゃあもう1つ聞きたいんだけど」
「何?」
「….翔也は元気?」
蜂谷は口いっぱいにたこ焼きをもぐもぐしながら俺を睨んだ。
「翔也と関わろうとしないでよ。やっと陸上に集中してくれるようになったんだから」
「元気か聞くのもだめなの?」
「だめだよ。元気がないって言ったらどうするの?翔也に会いに行って、椿原がどうこうって話になって、また揉めたい?いい加減にしろよ」
口の中のたこ焼きがなくなると、蜂谷はすぐに次のたこ焼きを頬張った。
「さっさと椿原と付き合え。そのためなら僕協力してもいいから」
「おお…つまり友達だね、俺たち」
「なんでそうなる…あ、ちょっと!」
蜂谷の手から爪楊枝を奪い、残り1個のたこ焼きをくわえた。
「くそ川名〜」
「ありがとう、じゃ!」
何が解決したわけでもないけど、自分の気持ちははっきりしてきた。俺は椿原をトラウマから解放したい。すぐには無理でも、いつか健康的な気持ちでヒートを迎えられるように。
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