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03.懐かしい思い
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「えっと。久しぶりだね。改めて」
十文字は、ひきつった笑みを浮かべる。
「そうだね。何年振りなんだろうって考えていて。卒業してから電話では何度か話をした気がするんだけど。それ以来かな?」
「そうだね」
拓の笑みは、十文字を高校時代に引き戻す。
「十文字、なんだかたくましくなったね」
「おじさんになっただけじゃん」
「そんなことないよ。いい男になったじゃない」
石田がコーヒーを持ってくる。
自分で「なしにして」と言っておきながら、彼との共通点は「小針」という男しかいない。
小針と言う男は、石田の従兄弟であり、拓の同級生でもある。
石田は、彼を好いていないが、拓との共通の話題は彼のことしかないのだ。
仕方なしに声をかける。
「小針も来るぞ。たまに」
「そうなんだ!梅沢にいるって前に聞いて。だけど、結局会えていないんだよな」
「随分、振り回されていたのにな」
「そう?そう見えたかな?確かに。小針のせいで体調悪くなったのもあるかも」
冗談交じりに拓は答える。
「どうぞ、ごゆっくり」
そう言って、石田は、立ち去る。
彼がいなくなってしまうと、十文字は心細い。
「十文字は、市役所って言っていたもんね。しかも星野一郎記念館の担当って。カッコイイね。なんだか音楽とは疎遠になっちゃって。おれも何か始めたいな」
「いや。仕事でたまたま配属になっただけだ。おれも音楽なんて、ほとんどやっていないから」
「そうなんだ」
「忙しくて。残業続き。昨日も、ここで眠り込んじゃって、結局、先輩におんぶされて先輩の家に泊まるという醜態をさらしてしまった」
「え?十文字が?」
拓は、朗らかに笑う。
「そんなことあるの?」
「おれもびっくりだ」
「本当。高校の時は、十文字って育ちのいいお坊ちゃんで、上品で。おれ憧れちゃったもんね」
「そんな。拓のほうが物静かで賢明で」
「そんなことないよ。おれは。母子家庭だし。育ちも悪いしね。まったくね。まあ、ここまで成長して今は一人でもなんとか生活できているんだから、おれの人生も悪くはないのかな?って思っているけどね」
拓は、自分を下に見る。
それは高校時代からのクセだ。
母子家庭というのが、彼にとったらネックになっているのだろうか。
だけど、そんな彼が好きだったのだ。
そう。
先延ばしをしても始まらないのだ。
今日はそうすると決めてきた。
あんな大変な仕事も乗り越えたのだ。
ダメでもいいじゃないか。
十文字は、拓の名を呼ぶ。
彼は、コーヒーを飲みながら、視線を戻す。
それから、カップをソーサーにおいて、十文字を見つめた。
「何?」
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