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07.あれから…
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あれから。
なにかあるたびに保住の家にお邪魔をして夕飯をごちそうになることが増えた。
最初は不愛想だった妻だが、お土産を持参したり、慣れ親しんでくると気さくで素敵な女性であることが分かった。
食事が終わると、結局は仕事の話。
現在取り組んでいる事業だけでなく、そもそも公務員ってなんだろうという根本の問いについても話が及ぶことが多かった。
そんな話に妻も混ざることも多い。
彼女は専業主婦だが、聡明な女性で、経験もしていない自分たちの業務について、的確に言葉を返してくることが多かった。
幾度か付き合っているうちに、だから保住は彼女を妻として選んだのだろうということが良く理解できた。
保住と妻が並んで会話に混ざっているのを見ると、なんだか心が揺れた。
そんな複雑な気持ちがなんなのかわからないまま。
年度末を迎える。
吉岡は一足先に他の部署に異動になった。
次は建設部河川課改良係への異動だった。
保住や水野谷と一緒に机を並べて、仕事をする機会はなくなってしまったが、仕事後の付き合いは続いた。
保住はその後も志を共にしてくれる職員を増やしているようで、自宅に遊びに行く度に人が増えているような気がした。
最初は自分と水野谷と三人で始まった会合も、いつのまにか10人程度に増え、ますます賑やかなものとなった。
あの時の人脈は、後々の市役所ライフには多いに活かされた。
同じ世代で、気心の合う職員と思う存分仕事について語り合う時間は、自分たちにとったら心地がいいものであった。
そして、30を目の前に佐和子と結婚。
自分も家庭を持ち、一家の大黒柱として仕事に取り組んだ。
市役所には古き悪しき考えも多い。
新しい部署に行く度に、悩み苦しみ、そして保住に相談をしてらなんとか務めていたように思われた。
自分が37の時。
保住が国に研修に出されるということを耳にした。
その頃、彼は市役所では異例の出世で政策推進部広報広聴課の課長を務めていた。
ここのところ、保住は多忙が続き、自宅にもあまり帰れないような状況だったので、彼の自宅に集まる機会が減っていたのだ。
風の便りで聞いたそれは、嬉しい反面。
寂しさも感じられた。
国に行くということは、しばらく彼と会えないということなのだから。
吉岡は、都市政策部交通政策課街路施設係の主査をしていた。
彼とは、ほとんど接点もない。
「国に行くんですね。おめでとうございます。保住さん。気を付けて」
そんな言葉をかけたい。
そう思っていたが、それはなかなか叶うことがなかった。
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