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08.桜の下の邂逅
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「今日の外勤はずいぶんかかったよな」
同僚の天野と、くたくたで庁内に戻る。
街路についての管理をしているので、市道の管理を自分たちも行っているのだ。
作業服に、少し汚れた格好の自分たちは、市役所では浮いている。
スーツを着ている事務屋とは違うのだな。
そう思う。
「こう寒いと、外勤はきついな」
「本当だ。早く異動したいぜ」
ぶうぶう文句をいう天野。
二人は玄関を抜けて、部署に向かおうとする。
時間は昼休みだ。
のんびりと歩いている職員も多い。
吉岡は、ふと中庭に視線を向けて足を止める。
季節は11月だ。
もう寒い。
北風が吹く中、黒いコートを着た男が、外のベンチに一人座っていた。
「吉岡、昼飯どうする?」
大きな物差しをもった天野は吉岡を見る。
「吉岡?」
「悪い。先戻ってて」
「そう?じゃあ行っているぞ」
彼は首を傾げたが、そのまま歩き出す。
それを見送って、吉岡は中庭に出る。
コートの男に声をかけたいからだ。
逸る気持ちを抑えて近付く。
そして、一呼吸置いてから声をかけた。
「こんなところにいると、風邪をひくじゃないですか」
男は考え事しているのか、吉岡が近づいたことにも気が付かなかったようだ。
相当近くまで行き声を上げると、こちらを振り向いた。
「吉岡じゃない」
「お久しぶりですね。保住さ……いや。課長か」
「課長なんていいよ」
吉岡は保住の隣に腰を下ろす。
それを見て、保住は苦笑した。
「ずいぶんたくましくなっちゃって。どこ建設屋の人かと思った」
「汚くなるんですよ。外勤ばっかです」
「街路施設係だもんな。尊敬するよ」
「んなことないですよ。広報広聴課でお疲れですね」
「疲れているなんて言ったら、頑張っているみんなに悪いからね」
保住は苦労しているのだなと思う。
出会ったころは黒かった髪も、白髪が混ざってきている。
「でも、たまには本音言ったほうがいいですよ。一人で抱えるなんて保住さんらしくないじゃないですか」
「おれらしくないか」
彼は微笑む。
しかし、その横顔は力がなく。
顔色も悪い気がした。
「保住さん。体調悪いんじゃないですか?」
「え?そんなことはない。疲れているだけだろう」
「それならいいですけど。いや。それもよくない。休まないと」
「そうもいかない。議会時期だ。それに……」
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