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12.悪夢の始まり
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しかし、それから時間ばかりが経った。
彼のうわさはよく耳にする。
市長のお気に入り。
職員と市長との確執が問題視されていた数年だったが、彼が市長公室秘書課長として戻ってきてから、それは随分緩和されたらしい。
今まで、職員をぎゅうぎゅうに締め付けていた市長の施策は緩まり、職員たちも市長に協力しようという姿勢が少なからず出てきているとのことだった。
それに、日々、澤井が保住の悪口を言っている声が響く。
そんなストレスフルな状況で、なんとか新人研修を終え、定期的な研修の企画に明け暮れていたある日。
そのニュースは唐突にやってきた。
「課長、秘書課から緊急の連絡です」
ふと、「秘書課」という言葉が耳に入って、顔を上げる。
隣の人事係の電話が鳴り、職員が大きな声で澤井を呼んだのだ。
少し離れたところにデスクを構えていた澤井は面倒な様子で手を振る。
「面倒だ。貴様が要件を聞いておけ」
澤井は、電話を直接受け取るのは嫌がる。
職員がとりあえず用件を聞いてから回せをいうスタンスだ。
緊急なのに……と、職員はぶつぶつ文句を言いながら電話の対応する。
「はあ、え!しかし。そうですか……了解しました。課長に伝えます。なお、必要事項に関しては追って指示が出るかと思いますので、よろしくお願いいたします」
吉岡はパソコンを打つ手を止めずに、聞き耳を立てる。
受話器を置いて、職員は澤井のところに駆け寄った。
「秘書課の課長が倒れたそうです。しばらく入院になるようなので、穴を埋めるため課長補佐を課長代理にしてほしいという連絡でした。いかがいたしましょうか」
秘書課の課長って。
吉岡は茫然とする。
「保住さん……?」
いつもは、何に対しても悪態をつく澤井が、珍しく黙る。
「そうか。そのようにしろ辞令交付しておけ」
「は、はい」
澤井のそんな反応なんて、関係ないくらい。
吉岡は動揺する。
「係長、あの、書類を……」
部下が企画書を持ってそばに立っているのに、気が付かない。
「係長?」
「あ、ああ。ごめん。そこに置いておいて」
「はい」
やっぱり。
具合が悪かったんじゃない。
入院って。
どういうことなんだ?
会いに行かなくちゃ。
会いに行かなくちゃ。
そんな。
こんなこと。
あるわけない。
なにか悪い夢をみているのだ。
自分は。
きっと。
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