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20.戸惑と邂逅
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結局、あの赤ちょうちん以来、天沼とは会っていなかった。
忙しいってこともあるのだろうが、あんな別れ方をした後で、どんな風に声をかけたらいいのかわからなかったのだ。
それに、ワイシャツも返してしまって、彼と会う口実がない。
友達だったら、口実なんてものはいらないではないかと、自分に言い聞かせてはみても、そんなあっけらかんと彼を食事に誘うなんてことは、できそうになかった。
「十文字、悪いけど、書類の廃棄処分できる?」
先輩である田口に声をかけられて、台車に乗っている段ボールを見つめた。
「わかりました。行ってきます」
「悪いな。足元悪いから、気を付けて」
「了解です」
田口は、別件で忙しいみたいだし、こういう雑用は下っ端の仕事だ。
文句を言うわけでもなく、十文字は台車を押した。
エレベーターは、中央棟に二機あるのみだ。
基本的には、来庁者や、お偉いさんたちが利用するばかりで、自分たちのような一般職員は、階段が基本だ。
しかし、荷物がある場合だけは利用が許可されている。
いや、誰も利用してはダメと言っているわけではないのだ。
ただ暗黙のルールみたいに、なんとなく利用しないだけ。
使いなれていないから、エレベーターにたどり着くまでも手間取ってしまう。
こんなことなら、階段で一つずつ下ろしたほうが楽だったかも。
そんなことを考えながら歩いていく。
見慣れない職員と多くすれ違った。
中枢部の職員たちと顔を合わせる機会など、ほとんどないからだ。
なんだか少し緊張しながら、やっとの思いでエレベーターの場所にたどり着くと、そこには、先客がいた。
自分よりも随分小柄な中年の男だ。
茶封筒をいくつか抱え、少しお腹が出ている横のシルエットは、愛嬌があるようにも見えるが、エレベーターのランプを凝視しているその眼光は、鋭くて冷たい感じがした。
この調子でいくと、彼と同じエレベーターに乗らなくてはいけなくなるのだろうか。
密室に一緒にいられるような雰囲気ではないと思い、「一回やり過ごそう。急いでいないし」と心に決めて、彼からは離れた場所で立ち止まった。
しかし、そんな仕草が逆に違和感を生んでしまったのだろうか。
男は、ふと視線を上げると十文字の姿を捉えたのだった。
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