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23.謝罪と無防備
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もう我慢ができなくて、彼に会いたくて、21時まで粘った。
保住には「帰れ」と言われたが、それでも仕事があると押し通して粘ったのだが、そろそろ限界だ。
「さっさと帰れよ」
さすがに、怒られて追い出されたので、仕方がないと観念する。
きっと天沼は、まだ残業しているに違いないのだから。
彼になんと言うのか、正直、考えは一つもない。
しかし、もう我慢の限界だったのだ。
あの男はなんだ?
仲良くなんかしちゃって。
いてもたってもいられないというのは、こういうことだ。
十文字は再び、天沼の部署を訪れた。
やはり彼はいた。
しかし、今日は彼しかいなかった。
「やっぱり、いましたね」
十文字が声をかけると、彼は弾かれたように顔を上げた後、表情を和らげた。
「びっくりした。十文字じゃない」
「また残業ですか」
「うん……やることが結構あってね」
「係長の仕事」
「違うよ。今日は自分の仕事」
彼は疲れた顔をしている。
目の下には隈が浮かび、疲労の色も濃い。
先日会った時とは、明らかに違った様相だった。
「明日できることは、今日やらない」
「え?」
「うちの上司の言葉ですよ。どうせ、キリがないんでしょう」
「それは」
「仕事なんて、いつまでやっても終わらないんです。帰りましょう」
「でも」
「この前、途中で帰ったんだ。あの時のお詫びしてくださいよ」
「……ごめん。でも」
「いいから」
少し苛立ったような強引な口調に、天沼は折れたのか。
パソコンをシャットダウンした。
「ごめん。この前は」
「別に。怒ってますけど」
「そうだよね」
コートを着込んで、彼は荷物を抱えると、部署の消灯をした。
真っ暗になった廊下を二人は連れ立って歩いた。
「今日は……夕飯……」
「天沼さんの家でいいですよ」
「でも、食べるものないし」
「これ」
十文字は、近くのコンビニで買ってきたおにぎりやパン、お弁当を持ち上げた。
「あ、」
「この前の一万円の残りです。天沼さんのおごりですからね」
「別にいいけど……」
悪態をついて見せても、彼は怒らないのか?
本当に嫌になる。
何を考えているのだ?
あの男は何?
そして、無防備。
先日、あんなことがあったばかりなのに、自宅に自分を招き入れる天沼は無防備すぎると思った。
だからつけいられるのではないか。
あの男に。
男の嫉妬は醜いってわかっていても、止められないのだから仕方がない。
ずっと、聞きたいことを我慢していたおかげで、玄関を入るとすぐにそれが溢れてしまう。
パーソナルスペースに入った安心感からなのだろうか。
ここなら大丈夫って、頭のどこかで思っているのだろう。
「どうぞ……っ?」
招き入れてくれた天沼の手首を掴み、そのまま引き寄せてから壁に押し付けた。
「な、何?」
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