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殻
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静かな部屋の中で、カタカタという音だけが響いている。
ドアも開いていないその部屋は、
外の世界から遮断されているようにさえ感じる。
この時間が、感覚が、自分を守ってくれる殻のようで心地よかった。
外に出れば嫌でもコミュニケーションが必要となってくる。
学友は嫌いじゃない。
でも、得意でもない。
だから、必要以上の接触は避けて、この殻の中に閉じこもる。
ここは大学構内にある使われていない空き部屋だった。
本館からも離れており、あたりも静かなこの場所を
好きになるのに時間はかからなかった。
誰も入ってこないでほしい。
この時だけは、この場所だけは、自分が自分でいられる唯一なのだから。
カタカタと鳴らし続けていた音に間隔が生まれ、やがて止まる。
そのタイミングを知っていたかのように震えた携帯端末。
彼からだ。
キーボードから手を離しゆっくりと伸ばした手。
それが端末に触れる前に、そっと抑えられる。
まるで割れ物を扱うような優しさと、それでも力強い温もりに、今この場所に一人じゃないことを気づかされた。
なんで、なんて言葉は咄嗟に出ない。
手を取ったまま何も言わないその人物は、人懐っこい笑みを浮かべていた。
頭の中で警報音が鳴る。
この人はだめだ、彼は、だめだ。
手を払うこともできず、ただその笑顔を見つめることしかできなかった。
誰も入れたことのない硬いはずの殻が、音を立てたような気がした。
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