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[大学編020]迷走 3(微ホラー)
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いつのまに、こんなにもあの後輩の存在が大きくなっていたのか。勝手に付き纏われて、初めは鬱陶しさしか無かったというのに。
構内を歩いているとどこからともなく現れては、機嫌良さそうな笑顔で話しかけてくれる大型犬のような姿を思い出す。
今は話しかけてくる人などいない。
辰真は、央弥の学部さえ知らないのだ。
無意識にその姿を探してしまっている自分がいるのだが、全く見かけなくなった。避けられているのだろうか。
今までは時々その姿を学内で見かける事もあったが、人気者の央弥はいつでも誰かと一緒で、辰真には見せたことの無いくだけた表情で友人たちとはしゃぎあっているのだった。
やはり、俺とは違う人種だったんだ。
その時、パタパタと背後から軽やかな足音がして、思わず脳内に「葛西さん」という嬉しそうな声が浮かぶ。
しかし足音の主は見知らぬ誰かで、辰真を追い越してその先にいる学生に向かって行った。
ー情けない。
まだ講義はあったが、どうしても気持ちが沈んでしまって辛かった辰真は家路についた。
そして自宅の最寄駅に降りると、ソレはホームの真ん中に立っていた。
ゆらゆらと揺らめくぼんやりとした影。
「かわいそうに」
自分の口から無意識に漏れた声にハッとして慌てて歩き出す。しまった。影響させられてしまった。
頭のすぐ後ろから声がする。
「かわいそう?かわいそう?」
聞こえないふりをして足早に改札をくぐり、自宅へ向かう間も足元にぼんやりとした影がまとわりついていたがとにかく部屋に入って扉を閉める。
大丈夫、扉は結界だ。
背後でずっと扉をノックする音が鳴り続けていたが、辰真は振り返らずにリビングに入った。
それからというもの、行く先々に影がついて回るようになってしまい、辰真は精神的に参っていた。
幸い、部屋には入って来られないらしく現れない。
いつか央弥が撒きまくった塩がまだ効いているのかもしれない。大半は清め塩ではなかったわけだが。
あと少し単位を取れば卒業に問題は無く、卒業制作に関してはむしろ部屋で作業に没頭した方が捗るくらいだ。
問題を後回しにしているだけだという自覚はあったが、辰真は作業を理由にどんどん部屋から出なくなっていった。
しかし、ストックしてあったカップ麺や冷凍食品の類ばかりの食生活と、日の光もろくに浴びず昼夜逆転の中でパソコンと向き合うばかりの日々はすぐに体調不良をもたらした。
こんな時は無性に寂しくて堪らなくなる。
連絡を取る友人さえいない。
慕ってくれた央弥との縁は、自ら断ち切ってしまった。
「…」
くらくらと不快な目眩にため息をついてベッドに横になると、余計に寂しさが襲って来た。
別に、友人をやめたつもりなんかない。
一度恋人関係になって、それを解消しただけだというのに、連絡の一つもぱったりと寄越さなくなって、冷たい奴だ。
そうだ。別に東丸の事が嫌いだって言ったわけでもないし、話しかけるなと言ったわけでもない。
そう思ったが、問題はそんな事ではないと辰真自身もわかっていた。
だいたい、本当にそう思うなら自分から連絡をすれば良いだけの話だ。
「…そういうことじゃ、ないんだよな…」
あんな、人前で大声を出すほどの感情を一体どこに隠し持っていたと言うのか。
全て見せた、隠してることなんか無いと言いながら。
…もう、友人には戻れないのか。
そう考えた途端、胸が苦しくなり耐えきれず涙が溢れた。
「…っ」
体は熱っぽいし、頭も痛い。
一度流れ出した涙は止まりそうもなく、心も体も弱りきってしまった辰真は項垂れたまま央弥に電話をかけた。
数コールののち、呼び出し音が途切れる。
『も、もしもし…葛西さん?』
久しぶりに聞く声に安心して、また涙が出た。
「…と、まる…」
情けなく声が震える。
熱に浮かされてぼんやりとした意識の中、ただ名前を口にする。電話越しに驚くような気配がした。少し恥ずかしさを感じたが、それは一度吐き出してしまうともう止まらなくて。
「東丸っ…」
ひく、と喉が痙攣して情けない声が出た。
『今どこ』
「俺の、部屋…」
『すぐ行くから』
ブツッ、と通話が切られて、無機質な電子音が繰り返される。少しだけ冷静になった辰真は子供のように泣いたりしたことを恥ずかしく思ったが、央弥が来てくれると思うと、そんな事はもうどうでもよく思えてしまった。
自分から突き放したくせに、なんとも勝手な話だ。
「葛西さん!」
どれくらいぼんやりしていたのか、チャイムの音と扉の外から聞こえてきた遠慮の無い大声にハッとする。
まだ夕方とはいえ、廊下に響き渡るその声に慌てて立ち上がった。
「葛西さん、大丈夫!?」
「いま開けるから」
大丈夫だからあまり騒ぐな、と扉の向こうに声をかけて扉に手を伸ばす。早く、早く。
もどかしく思いながら鍵を開けると、間髪入れずに扉が開かれて、一も二もなく抱きしめられた。
辰真も反射的にその背に手を回してしがみつく。そうして二人は玄関でお互いに無言のまま、しばらく抱き合っていた。
ドキドキと心臓がうるさい。それが自分なのか、相手なのか、もはやわからない。
「…っ葛西さん、どうしたのいきなり…ビビる…」
走って来たようでまだ息が整わない央弥はそう尋ねながらようやく体を離して額の汗を拭う。
「いや…悪い」
「てかすっげ熱くない?熱あんの?」
「そう、かも」
「いや絶対にそうでしょ、寝て寝て」
迷走
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