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「あ。」
「ああ!」
雨が急に降り出した。
慌てて立ち上がると、トオルさんから手を引かれた。
「急ぐぞ!」
あぁ、きゅんきゅん胸が痛い。
俺を引っ張る力強い手、雨に濡れて浮かび上がる肩甲骨。
黒く深い色に輝く髪が、現実じゃないみたいになびいている。
好き。
どうしよう、好き。
このままずっと追いかけていきたい。
この手を離さず、握っていて欲しい。
貴志は雨に濡れながら、この一瞬一瞬を脳裏に刻み込みながら走った。
公園を出たところに、美術館があった。
軒下に走り込むと、ふたりで肩を揺らした。
「ふふ、濡れちゃったね。」
「スコールみたいだよ、全く。」
激しい雨足に、ふたりとも靴が汚れてしまった。
髪の毛から滴り落ちる滴を払うように、トオルさんが髪をかきあげた。
露わになる額に、薄い線が入っているのに気付いた。
何かの古傷・・・。
「ほら、貴志も濡れちゃって。」
貴志の白いシャツが濡れて、下の肌が透けてしまっている。
なんだか目の毒だった。
貴志のフェロモンといい、その透けた服の感じといい、濡れた黒髪が堪らなく綺麗に思えて、トオルは内心困ってしまった。
「こんなのすぐ乾いちゃうよ。」
そう笑う貴志は、消えてなくなりそうな可憐な感じがした。
「・・・美術館、入ろうか。」
沖縄の染物と織物の展示があっていた。
正直、そんなものは興味はないけれど、沖縄の空の下で笑う貴志を見てみたくて、何だか無性に観たくなった。
「濡れてるの、迷惑じゃないかな?」
「大丈夫だろ。売店にタオルとか売ってないかな。」
ミュージアムショップは、実は貴志、大好きだ。
「売店、行きたいかも。」
「なに?好きなの?」
「うん。ミュージアムショップって、特別なものがたくさん売ってあるから。トオルさんは、新国立美術館は行ったことある?」
そこのミュージアムショップや、有楽町の東京国際フォーラムのミュージアムショップがお気に入りで、ひとりで行っては、あれこれ想像しながら過ごす時間が好きだった。
「へえ。まず美術館とか博物館とか入らないから、新鮮。」
残念ながら、ここにはミュージアムショップは無かったが、トオルさんから「次はそこに連れて行ってよ。」と言われて、一気に熱が上がった。
「あ、おい。熱あるんじゃないか?」
いきなり額に触られて、飛び上がるほど驚いた。
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