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「あれ、貴志さん?」
「小夜くん。」
一緒に入ってきた人物を見て、俺は目を大きく見開いた。
「風見さん?」
「藤沢さん、先日はお越しいただいてありがとうございました。」
ライムの風見さんがいたのだ。
「小夜は初めてだよね。エドワードさんの右腕の藤沢さんだよ。」
風見は、説明しながら納得した。
篠崎さんの息子さんは、藤沢さんのことで悩んでいたのだ。
「藤沢さん、わたしのパートナーの杉です。晋作くんの家庭教師をしています。」
藤沢さんは目を丸くした。
「ごーしちごーしちしち!!」
風見の脳裏に、チャンギ空港での悪夢が蘇った。
「はじめまして、杉 小夜と申します。晋作くんの歌の件ではご迷惑をお掛けしました。」
「い、いえ!笑いすぎてハンドルをもぎそうになっただけですから。・・・へぇ。」
篠崎さんの息子さんが立ち上がった。
「トオルさん、小夜くんは俺の親戚の子です。」
ああ、不思議だ・・・。
目に見えない糸が絡み合っている。
そして、その関係はとてもあたたかい。
「杉さん、良かったら座敷を使ってくれ。」
「ありがとうございます!」
小さな女の子がふたり、大人の会話の行方を見ていた。
母親であろう女性が頭を下げて座敷へと子どもたちを連れて行く。
不思議な組み合わせのグループだが、なんだかほのぼのした。
近くて遠い、絶妙な距離感。
そして、優しいおばさんの声。
「お嬢ちゃんのお名前は?」
「さくらいみこです。」
「上手に言えたわね。」
家族のような温かみのある、おじさんとおばさんらしい居酒屋。
そしてそこに、貴志が連れてきてくれた。
「貴志、ありがとう。」
「ん?」
二度と会うことがないと思っていた。
おばあちゃんも亡くなって、父親とは縁を切って、もう戻ってこないと思っていた街。そして、心の底では戻ってきたいと思っていた街。
優しいおじさんとおばさんが、くすぐったい過去を思い出させた。
全てが嫌な思い出ではない。
今なら父親の話も、貴志に打ち明けられそうな気がした。
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