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「じぃちゃん!」
「小夜!」
縁側に座って扇風機の風を浴びていたじぃちゃんに、おれは駆け寄った。
「おぉ、来たか。」
「うん!」
「風見さんも。」
「はい、お元気でしたか?」
相変わらずの優しい笑顔で、おれは嬉しくて、じぃちゃんの座る縁側に両手をついて身を乗り出した。
「どら、麦茶でも飲まんね。」
よろりと足を震わせながら立ち上がるじぃちゃんを見て驚いた。
・・・風見さんの言ったとおりだ。すごく弱くなってる。
「おれ、淹れる!」
「おぉ、ありがとう。」
風見は玄関に回って、中に入った。
小夜のお婆さんの位牌に手を合わせるためだ。
「風見さん、ありがとう。」
「いいえ、お婆さんにお会いしたかったです。」
壁沿いに付けられた手すりを伝いながら、お爺さんが戻ってきた。
「お爺さん、良ければお墓参りに行きませんか?」
「・・・足がなぁ。」
小夜がお盆をカタカタ言わせながら戻ってきた。
「はい、麦茶。じぃちゃん、お菓子用意してくれてたんだよ。」
あぁ、懐かしい。
黒砂糖たっぷりの麩菓子だ。
「ありがとうございます。・・・お墓へは、わたしが背負いますよ。」
「お諏訪さんで登ってくれた時より、近いから、じぃちゃん、一緒に行こう?」
斜面に立つ古い墓地だ。
階段も多く、足の弱ったお爺さんは一人で行けないだろうと予測していた。
迷っているお爺さんに重ねた。
「遠慮しないでください。家族なんですから。」
そう言うと、嬉しげに笑ってくれた。
「風見さん、すまんね。甘えさせてもらおうかね。」
「はい。」
今夜、泊めてもらう事も一緒にお願いした。
「え。あっちに泊まるんじゃなかとね。」
「お母さんの家には、小夜が泊まります。お爺さんの家には、わたしが泊まらせてください。」
これは予め小夜と話し合っていた事だった。
万が一の事態に離れていては、お爺さんの救出が間に合わない。
とはいえ、天然のお母さんをひとりにしておくと、それはそれで不安だった。
「布団は干しとらんばい。」
「じぃちゃん、大丈夫。お母さんのところから運んでくるけん。」
「なら、よか。婿と飲み明かす夢が叶う。」
「アハハ、お爺さん、お手柔らかにお願いします。」
のんびりとしたお爺さんとの会話は、肩の力が抜けて、殺伐した現実を忘れさせてくれる。
「ばあさんにも、会わせたかった。」
「ふふ、お墓参りで会いに行こう。」
「あぁ、小夜の言うとおりだ。・・・久しぶりだ。」
お爺さんが出掛ける準備を始めた。
髭を剃り、めかしこむ姿は、微笑ましい。
連れ添った妻に、久しぶりに会うのだ。
「・・・小夜、久しぶりに花火するか。」
「アハハ、爆竹は嫌だよ。」
「昼間に線香花火したっちゃ、つまらん。」
「もう!」
物騒な話を始めたふたりを見ながら、仕事の問い合わせが入ってきたものを捌いていく。
「墓に行く途中に、店のあろうもん。花と爆竹買って行かにゃ。」
「もー。しょうがないなぁ。」
麩菓子を摘んだ。
顔を顰めるくらい甘いそれは、懐かしい思い出の味だ。
「支度できたばい。」
「はい、では参りましょう。」
珍道中が始まった。
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