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126 2019年8月15日
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心配していた被害は、小夜が住んでいた地域ではなかった。
庭木の枝が折れ、トタンが千切れ、どこの家のものか分からない瓦が散らばった現状はあるけれど、じぃちゃんの家も、母さんと過ごしたこの家も、大きな被害は無かった。
風は、まだまだ強い。
時折、びっくりするくらいの風が吹いたりもする。
それでも家族全員が無事で、思い出の詰まった世界が守られた事に肩の力が抜けた。
心配していた停電は、一部の地域であったようだった。
電線を引き千切る、あるいは電柱をへし折るくらいの自然の猛威には、驚きしかなかった。
台風は広島に上陸し、現地で猛威をふるっているにも関わらず、遠い山々を挟んだ長崎でさえ、影響を及ぼしている。
テレビでその様子を見て、小夜は他人事とは思えずに胸を痛めていた。
学校の同期の中にも、呉市出身の子がいた。
大丈夫かな・・・。
風見さんの携帯には、緊急時の安否確認の連絡が来ていた。全社員へと向けたものだという。
「これで返答のない人には、社員或いは家族や家に被害があったと想定して、次の確認が入るシステムなんだ。」
台風の暴風圏内に入る支店営業所については、昨日のうちから全員自宅待機命令がくだっていたらしい。
もちろん、大切なサーバー管理のための僅かな専門の人は会社に詰めているそうだが、安全が確保されない状況であればすぐに放棄するように言われているらしい。
「でも、逆に家よりも会社にいたほうが鉄骨だし、安全に違いないんだろうけどね。」
だよね。
でも、家族と離れてこんな一夜を過ごすのは怖いと思う。
家族を守りたいのに守れない状況は、辛いと思うのだ。
「・・・みんな、無事ならいいね。」
「だな。」
軍手を嵌めた手で、トタン板の鋭利な角に気をつけながら新聞紙に包み、ゴミ袋に入れた。
「これ、片付けたらお墓見に行かなくちゃ。」
「お供えした花は飛んで行ったかもしれないね。」
遠くで爆竹の音がした。
「ふふ、お盆の音だ。」
「長崎のお盆が、好きになれそうだよ。」
悪戯っぽく笑う風見さんに、肩を竦めた。
「さては爆竹にハマったな?」
「正解!」
ふふ、男の子心がくすぐられたらしい。
「台風の影響で精霊船の数は少ないかもしれないけど、夜に見に行こうか?」
「え?港にいくの?」
首を振った。
「県庁坂ってところ。何艘も地面を曳いていくからね、覚悟して行かなくちゃいけないんだよ。」
「へぇ?」
分かってないな、あの爆竹の嵐。
耳栓がコンビニにでさえ並ぶなんて、きっと風見さんは見たことがないはず。
きっと目を白黒させるんだ。
そして、笑ってくれる。
長崎のお盆は楽しいなって。
湿っぽくない、がちゃがちゃしたお盆。
多分、故人を偲ぶというより、故人と一緒に楽しむのだ。
故人の乗った大きな精霊船を曳いて、爆竹をたくさん鳴らして笑いながら流し場まで行く。
そこには、涙なんてない。
みんな笑顔で、故人と一緒に最高の思い出を作るのだ。
そして、爆竹が鳴ると思い出す。
あぁ、初盆楽しかったな。
きっと、あの人も笑いながら天に帰って行ったよって。
ね、そうだよね、ばあちゃん。
空を見上げると、青空が覗いた。
小夜は、天国のばあちゃんが笑ってくれた気がして、なんだか幸せな気分になった。
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