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結局、何もすることがなければ、考えてしまう。
タカの手を握り損ねたことや、悠から捨てられた日のこと。
必死に働いて店長になれた日、すごく嬉しかったこと。
月に一度のミーティングで顔を合わせる律のこと。
・・・そういや、家ん中、どうなってるだろう。
こういう時に部屋を見てきてもらえるような友だちは居なかった。
いや、多分、人の良いchizooooのママなら、喜んで見てきてくれるだろう。
・・・冷蔵庫の中のもずく酢、たぶんもうダメだな。
牛乳と卵、豆腐。
そして、カルピスのペットボトル。
ぐるぐると考えていると、あっという間に就寝の時間になった。
・・・寝れるわけがない。
まわりのじぃさんたちは、イビキをかいて寝ている。
ひとりため息を噛み殺しながら、ゆっくりと流れていく時間を過ごしていた。
「よう。」
「ひっ!」
見舞いが来ていい時間じゃない。
日付が変わる時間に、オーナーの陸都がひょいと顔を出した。
「オーナー・・・驚かせないでください。」
「すまんね。」
悪びれた様子の感じられない彼は、悠の足元にゆっくりと座った。
「どうだ。」
「・・・すみませんでした。」
謝ると、陸都は密やかに笑った。
「盲腸だろ?誰しもタイムリミットがあるもんだ。そうじゃなくて、痛みは?」
「・・・切った痛みは、あります。」
「そりゃ仕方ないな。」
胸も、ズキズキと痛む。
「まぁ、塞がるまでは辛いな。」
「・・・はい。」
おしっこの管は外された。
代わりに、歩かされるようになった。
歩かないときは、考えても仕方のないことを考えてしまう。
何をしても辛いというのが、今の感想だ。
「メシは?」
「まだ、食べれないそうです。」
盲腸。
つまり、虫垂炎を甘く見ると死亡することもある。
悠の場合は、病院に行くのが遅かったから、腸にまで膿みが流れ出てしまっていた。
最近は点滴などの薬で回復することが多く、手術をしたとしても腹腔鏡手術といって小さな穴を開けてカメラを見ながら手術するほうが多い。
開腹手術をするということは、それだけ重症化していた証だ。
「歩かされてんのか?」
「はい、最低な気分です。」
子どもにするように、頭を撫でられた。
あまりの不意打ちに、悠は固まってしまった。
「悠。お前が無理をしたせいで、バイトが二週間、露頭に迷うことになるんだぞ。」
「・・・すみません。」
悠はスタッフに恵まれていた。
和気あいあいとして、しっかり切り盛りしてくれる彼らに悪くて、しょんぼりした。
「まぁ、結局店は開けたから、彼らの生活は守ってあげれたけれど、もう無理はすんなよ。」
「はい。」
そうだった。
コンドーも、マキちゃんも、苦学生だ。
学費は奨学金を借りて、生活費をアルバイトで稼いでいた。
「店って、まわりからヘルプを呼ぶって聞いていましたが、大丈夫でしたか?」
「おー。その辺は上手にやりくりするさ。」
頭に乗せられた大きな手。
撫でられるたびに、恥ずかしいような、嬉しいような不思議な気分になった。
「ゆっくり休んで、屁しろよ。」
「も、もう!」
言っていることは律と同じなのに、素直に受け止めることができた。
「あの・・・、オーナー、ありがとうございました。」
「ん。」
カーテンを開けて、そっと彼は出て行った。
悠は、まだあたたかい気がする頭に手をやった。
何だか、ちょっと嬉しかった。
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