アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
隣人
-
「じゃあ、明日は…8時ね。疲れてると思うけど、寝坊には気を付けて。穂波もちゃんと休むのよ」
「はい、ありがとうございます。」
「すいません、一緒に送ってもらってしまって。お疲れさまです」
篠塚さんは気にするな、と言う風に軽く手を振ると同時にアクセルを踏み込み、あっという間に彼方へと消えていった。
「俺の部屋、今大分散らかってますけど…本当に手伝ってもらっちゃっていいんですか?」
幼少期から親の都合で引越しの多い俺は、安定してユニット活動ができるように事務所の用意したマンションの一室に住まうことになったのだ。一緒に帰ってきたのは、何を隠そう優成さんも同じマンションの住人だと言うから。初めて聞いた時はひっくり返るかと思った。
「うん、浩司が良いなら。忙しくて引越して来てから色んなこと、あんまり済んでないんじゃないかって…勝手に心配だったんだ」
「あ、ありがとうございます!ホントに、ここ数日帰ってから寝るだけで…全然片付け進んでなかったので、すごい助かります」
優成さんは名前、そしてテレビでのイメージ以上に優しい人だった。心做しか後光が差して見える。これから毎日ブロマイドに拝んでおこうかな。
「良かった。お節介すぎるかなとも思ったんだけど…篠塚さんに買い出し手伝ってもらえて色々買えたし、今日頑張って片付けちゃおうな」
「はいッ!」
つい最近までテレビの向こうの遠い存在だったアイドルが、自分の部屋に来る。なんでもないような顔をしているつもりだけどさっきから肩がガチガチだ。見られたらマズいものとかなかったよな?ぱっと思い付かないけど、ある気がしてきた。
「浩司、部屋何階?」
「へっ!?あっ、12階!です!」
「そうなのか?俺も12階で、05号室なんだよ」
「えっ隣…」
同じく事務所が借りている部屋だからもしかしたら近いかな〜なんて薄ら考えていたけれど、まさか隣同士とは。とんだ大物ご近所さんである。
「だから佐久間さんも行く許可くれたのか…あの人普段、ちょっと過保護だから」
俺達5人にはそれぞれ専属のマネージャーがいる。俺にとっての篠塚さん、優成さんにとっての佐久間さんのように。更にその5人のマネージャーの中でもリーダー的な立ち位置で、ユニット全体のマネジメントもするのが佐久間さんだ。
「過保護、ですか」
「うん。でも心配してくれてるんだから、そんな風に言っちゃ悪いよな」
優成さんは一瞬、喜んでいるようにも困っているようにも見える複雑な表情を浮かべたけれど、すぐに元通り穏やかな表情に戻った。
ボタンを押してくれている優成さんに礼を言いながらガサガサと鍵を探す。
「すいません、ホントに散らかってますけど…」
「荷解き中なんだから、当たり前だろ。それに、今日はそれを手伝うために来たんだから」
あの穂波優成に引越しの荷解きを手伝わせるなんて、全国のファンに殺されやしないだろうか。優成さんも男なのは百も承知だが、やはり自分と比べると細く、力仕事や雑用を頼むのははばかられる見目をしているのだ。
「あ、荷物、そこかけちゃってください。その辺置いとくと多分埋もれちゃうんで…」
「分かった。お邪魔します」
廊下にちらほら散っているダンボールや梱包材の欠片を隅に追いやりつつ、ちらと優成さんの方を見やる。彼は白いセーターの袖を捲りつつ、俺が見ていることに気付いて首を傾げながら視線を合わせてくれた。
「どうした?」
「いや、えっと…あ、服、大丈夫ですか?ダンボールあんま綺麗じゃないかも…」
すると優成さんは、少し寂しそうに笑った。
「大丈夫だよ。…あんまり、遠慮しないでもらえると嬉しいな。これから一緒にいることが増えるんだから」
カーッと顔が熱くなる。俺にとって優成さんは雲の上のようなアイドルだけど、優成さんにとって俺は新しくできた後輩でしかない。自意識過剰だ。
どうしようもなく恥ずかしいけれど、前向きな言葉をもらえたことが嬉しくて、どういう顔をしていいか分からなくて視線を彷徨わせる。
「俺、皆と一緒にいると眩しくて、時々気後れしちゃうこともあるけど…でも、俺達は五人で一つのチームだから。皆、お互いのこと…もっと知りたいって思ってる」
黙ってしまった俺をどう受け取ったのかは分からないけれど、優成さんは一生懸命言葉を紡ぐ。
「俺は、浩司と対等に仲良くなりたい。三人も、浩司が来るのすごく楽しみにしてたから、多分同じ思いだよ。…もちろん、無理にとは言わないけど」
こちらを真っ直ぐ見つめる黒い瞳が少し不安げに揺らいだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
6 / 10