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悪の罠 07
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篠原柊side
空き教室から出て行く先輩の後姿を俺はただ見つめることしかできなかった。
引き止めたかった。追いかけたかった。ちゃんと話したかった。
でも、出来なかった。
足が動かなくて、口も開かなくて。
自分の体なのに、いうことが効かなかった。
「先輩…」
俺の声だけが、空き教室内に響き渡る。
「先輩、夕貴先輩ッ…」
何度名前を呼んでも、あたりまえだけど、返事はない。
あのとき、言っておけばよかったのか??
先輩に頼っていればよかったのか??
でも、それだったら先輩が…
「ッ…くそっ!!」
俺は、今さっきまで先輩が座っていた椅子を思い切り蹴飛ばした。
ガンッという鈍い音が空き教室内に響く。
俺は、どうすればよかったんだろう…
先輩のことを守りたいだけなのに…
結局は先輩を傷つけた。
「全然守れてねーじゃん…」
ポツリと小さくつぶやいただけなのに、その声は妙に大きく聞こえた。
その言葉に、俺は余計自分の無力さを思い知らされた気がした。
今日はもう何もする気が起きない。
寮に帰ろっかな…
そう思って足を進めると、ポケットに入れていた携帯が空き教室内に鳴り響いた。
ポケットから携帯を取り出して、画面を見る。
「っ…」
その瞬間、俺は息が詰まった。
正直、電話に出たくない。
でも、出なかったら、先輩が…
そう考えると、自然に通話ボタンに手が伸びていた。
ピッという機械音が鳴り、それが余計に俺の心を黒くさせた。
携帯を耳に当てて、重い口を開いた。
「もしもし…」
『もしもし、篠原さん…だよね??』
「えぇ、そうですけど…」
『出るのが遅かったから、間違えちゃったかと思ったよー!!』
高い声が耳に響く。
イライラする。俺の心がどんどん黒に染まっていく。
『それとも、電話出たくなかった…とか??』
「……」
『でも、それはさすがにないかー!!出なかったら、夕貴が危ないもんね!!』
「っ…」
きゃははと高い笑い声がまたしても俺をイラつかせた。
「で、用件は何ですか??」
『用件…ね。用件っていうか、ちょっと言いたいことがあってね。』
「言いたいこと…??」
『そっ!!』
なんだ…??
胸の奥がざわつく。
聞きたくない。でも、聞かないといけない。
夕貴先輩を守るために…
「なんですか??」
『そんな怖い声で聞かなくてもいいじゃーん!!』
自分でもわかっていたけど、向こうも気づくほど相当低い声を出していたらしい。
「早く言ってください。」
『はいはい。』
俺はこんなにもイライラしているのに、電話の相手はハイテンションだ。
それがまたムカつく。
『前にも言ったんだけどさ、夕貴は渡さないから。』
「っ…」
『夕貴はあんたのもんじゃない。誰のものかわかりますよね…篠原さん??』
「わかってるよ…」
『わかってるなら、いいんですよ!!わかってるならね…』
『それじゃっ!!』と元気よく言われて、電話が切れる。
俺の耳には、通話終了の音だけが虚しく鳴り響いた。
「夕貴先輩を守るためなんだから…」
そう何度も何度も自分に言い聞かせては自分の心の闇を静めた。
俺が守らないと…
夕貴先輩を守らないと…
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