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悪の罠 10
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「なぁ、佑介。」
佑介の笑顔を見たら、ふと俺の胸の中にあるモヤモヤが姿を現した。
俺は、篠原をどう思っているのか…
そのモヤモヤが現れた途端、考える暇もなく、佑介に声をかけていた。
「何??」
「あのさ…ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
俺の真剣な顔を見て驚いたのだろうか、さっきまで笑っていた佑介が真剣な表情をした。
「どうした??」
「佑介はさ、なんではるちゃんが好きだと思ったの??」
「え??」
「いや、好きな理由はわかったんだけどさ…。その…なんていうか…好きって気持ちがいまいちわかんなくて…。」
「好きって気持ちねー…」と囁く佑介。
俺は、その後の言葉を待った。
「そんな難しく考えなくてもいいんじゃない??」
「へ??」
次の言葉を期待して待っていたら、そんな言葉が飛んできて、思わずまぬけな声が出る。
「好きってのはさ、そんな考えたらわかるような気持ちじゃないんだと思うんだよなー。」
いまいちピンとこない俺は首を傾げる。
「俺は、この人だ!!って思った人が好きな人だと思う。」
「なんだよ、それ。」
ドヤ顔で話す佑介がおかしくて、笑ってしまった。
「だって、実際俺がそうだし。」
「え??」
「はるちゃんと出会って、あー、俺にはこの人なんだなーって思ったから、好きになったんだし。」
「そ、そうなんだ…」
人を好きになるってことはこんなに単純なものなんだろうか…
1つの疑問が頭に浮かぶ。
「どうした??」
そんな俺に気づいたのか、佑介が聞いてきた。
「いや…人を好きになるのって、もっと難しいものだと思ってたんだけど…そんな単純なんだな。」
「いや、夕貴の言ったとおり、難しいものだと思うよ。」
「は??え、じゃあ、さっきのは何なの??」
「んー、俺が言いたいのはさ、恋は確かに難しいものだと思うけど、案外自分が気づかないうちにって恋してることが多いってこと。」
「気づかないうちに??」
「そ。気づいてないから、難しいって思うんだよ。」
佑介の言っていることはなんとなくわかる気がした。
俺は、篠原がどんどん俺に近づいてきて…
俺の心の中にズカズカと土足で入ってきて…
そのたびに俺は、一歩、また一歩と後ずさって逃げてきた。
俺は気づいていないのか…??
自分の気持ちに。
「それに、相手が自分のことをどう思っているかわからないから、恋が難しいって奴もいっぱいいる。でも、その点、おまえは相手が自分のことをどう思っているかわかっている。」
「……」
確かにそうだなって思った。
自分では、相手の気持ちがわからない。
自分のことをどう思っているかなんてわからない。
その不安や恐怖心から、恋が難しいって思っている人はたくさんいるだろう…
じゃあ、俺は…??
俺はどうしたら…
「じゃあ、俺はどうしたらいいんだよ…」
「え??」
「俺はどうしたら、自分の気持ちに気づいて、きちんと恋と…篠原と向き合っていけるようになるんだよ…」
わからない。もう、わからない…
俺の言葉に、佑介はゆっくりと口を開いた。
「俺的に、夕貴はもっと自分の気持ちに素直になったほうがいいと思うよ。」
そう言いながら、佑介は立ち上がって展望台から降りていった。
俺はそれを目で追う。
そして、佑介は下に降りると目線を上に上げて、俺をまっすぐ見た。
その視線に目が逸らせなくて、俺もまっすぐ佑介を見る。
「どういうことだよ、それ。」
「おまえは、自分の気持ちに嘘をつくなってこと。」
「な、なんだよそれ!!」
「だってさ、俺にはもうおまえは篠原が好きだと思ってたからさ!!」
「なんでだよ。」
「恋の表情してたから。」
また、悪ふざけで言っているのか
からかっているんじゃないだろうか。
そう思ったが、佑介の顔は真剣で。
本気で言っていることがわかった。
「もっと素直になれ。んで、自分の胸に手を当てて、聞いてみろ。答えは、自分の胸の中にあるんじゃないか??」
佑介はそれだけ言うと、俺から視線をドアのほうに外して、屋上を出て行った。
俺だけしかいない屋上には、グラウンドから聞こえる、どこかのクラスの体育声とドアが閉まる音、そして、いないはずの佑介の言葉が何度も何度も鳴り響いた。
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