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この感情の名前を…教えて
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学力テストを終え、答案用紙を回収して担当の先生がチェックをしている。正直どうやって解いたかも、名前を書いたのかすら曖昧。と言うより全く記憶がない…もちろん名前順だから後ろにモモがいる。それだけで勝手にテンパって、後ろが気になって…
モモが動いた音、消しゴムを擦り付けすぎて答案用紙の「グシャッ」って音と「あっ」って言う小さな声…いちいちそっちに神経がいってしまって、この感情に気づいてしまうとこうなるんだ、と初めて知った。
今までの様に接する事が出来てるんだろうか、この無駄に鳴りっぱなしの心臓の音に、気づいているんじゃないか、いや、俺の考え過ぎ…意識、し過ぎかな。
「おい!ナオ!!」
終わりの号令をした直後、元気よく名前を呼ばれたので、俺はモモの方を振り向いた。
「何?」
「うわ。ようやく苦痛から解放されたのに無表情とか!はははっ安定してんな〜ちょっとは笑ってみたら?」
心配無用だったみたい。いつも通り安定の無表情を貫けている様子。よかった本当…感情を表に出すのが苦手で、こんなに感謝したことはないよ。神様ありがとう!
「あっ!今日暇?」
神様に渾身の感謝を捧げたとたん、モモに爆弾を投げつけられた…え、今日?
「飯!もう学校終わりだし、なんか食べに行こ?」
ぐーっと大きく伸びをしながら、少し下にある顔がくしゃっと笑った。
モモの表情、仕草、言葉、ひとつひとつで俺はこんなにも舞い上がる。不思議。
いや、でも、昨日の今日で2人でご飯とか、いやまずい、よな?おもに俺が…
「あっ!ショタ!聖司!昼食べに行こ〜、俺ラーメン食べたい!」
「おっ!行く行く〜、俺もラーメン!ショタは、何食いたい?」
「もう、いい加減ショタ呼びやめてくんない?俺ラーメンはヤダ、米食いたーい」
笑太くんと聖司にも声をかけ、みな各々の主張をぶちまけている。……ですよ、ね。2人きりなはずがない、いつもだいたいつるむメンバーはこの、4人に固定になっている。何を勘違いした、俺は…
HRを終え俺たち4人は学校を出た。商店街を歩き、そこを抜けると大きなモールに出る。食べたいものがバラバラなので、フードコートにいくことにした。そこに向かう途中…あ、ヤバイ、聖司の好きなガチャポンコーナーが…
「あ!!!恐竜シリーズ第三弾出てんだけどーー!!!」
「恐竜シリーズ!?コレ俺も集めてる!!!すげ!ついに来たかー!肉食コレクション!」
2人ガチャポンの前に張り付く…意外。モモも好きなんだ、ガチャポン。知らなかった。俺と笑太くんはポツリと取り残されてしまった……どうしよ、チラッと笑太くんを見ると、目が合ってしまって、しばらくお互いを見つめ合ってしまった。えっと、
「えっと、あーナオくん!ベンチ!座って待ってようか?どうせフルコンプするまで回すだろ、アイツら」
少し大きめな声で話しかけてきてくれたけど、なんとなく笑太くんの緊張が伝わってきた気がした…。「腹減ったんだけど〜」とため息交じりに笑う笑太くん。ガチャポンコーナーの向かいにあるベンチに座って、騒ぐ2人を眺める。…笑太くんと2人で話すことはあまりなかったな。どうしよ。
「あのさ、ナオくんって兄弟いんの?」
「姉が1人…」
おう!話題が切れる!なんで単語しか返せないんだよ…俺は…でも、一生懸命話しかけてくれて、優しいんだな、笑太くんて。
「へぇ、お姉さんか〜いいなぁ、俺は妹が1人と弟が1人…モモを合わせると2人かな」
口を尖らせて少しむくれ気味に言う笑太くんは、本当に子供みたいな顔…それをからかう勇気とかは無いから、言わないけど、でも彼は顔とは正反対にしっかりしてると思うし、お兄さんなのは、納得する。モモにからかわれてる時は気の毒だけど…そういえば、笑太くんとモモはいつから仲良かったんだろ?聞いてみよう、かな…
「いつから、一緒なの?」
よし!聞いた!聞いたぞ!!話を振ることが出来た!笑太くんを見ると目を見開いていた。そして何も言わずに笑った…こういうところはモモと笑太くんって似てるのかな…
「生まれた時から一緒でさ…もう本当超腐れ縁もいいところ!家も隣だし、部屋も隣で生まれた病院も一緒でベットも隣だった。誕生日も一緒で終いには母親同士も幼馴染。まじ呪われた家系だよね〜あっでも俺の方が先に生まれたからね〜俺の方がお兄さんね〜」
悟りを開いたかの如くな顔をする笑太くん…きっと何年も凄まじい戦いをして来たんだろうな、この2人。でも、そんな友達っていいな、と思う。俺は友達なんてまともにいないし、幼馴染なんて、憧れるけどな。
「でも、仲良し。」
「はぁ!仲良しじゃないっうーん…仲いいかはわからないけど、家族…かなぁ。アイツのこと知りすぎてモモの生態図鑑とか書けそうな勢いだよ本当…」
「気になる、生態図鑑。」
「えー!どうでもいいことばっかだよ!今ガチャポンやってるけどガチャが好きなんじゃなくて、恐竜が好きなだけとか…」
「うん、うん」
「家が美容室とか…個人情報なら嫌ってくらい流せるよ。まぁあとは、喧嘩ばっかしてるけど、うん、アイツは根っこが良い奴だと思う…自分では気付いてないみたいだけどさ?結構気にしいで相手を思ってるヤツだよ。調子乗るから言わないけどねー!」
ベーッと舌を出した後に笑う。そう。モモは根っこが優しいから、友達がたくさんいる。きっとみんなそこを知ってる…2人には10年以上の付き合いがあって、きっと俺より笑太くんはモモを知ってる、俺の知らないモモを知ってる、んだよね…ん?なんだろ、モヤっとした感じがする?いや、よくわからないや…
「あれ?モモって、兄弟いるの?」
「いや?俺一人っ子〜」
ガチャポンを一通り終えた2人が帰ってきた…カバンにガチャポンをカプセルごと突っ込むモモと正反対にカプセルを捨てて中身だけしまう聖司、性格でるよね、こういうの。
「まじ腹減ったんだけど〜いい加減にしてくんない?恐竜オタク。」
「はぁ?恐竜のなにが悪いわけ?地球上最古の生き物だよ?生命の神秘だけど〜?あぁ!頭に毛玉しか詰まってないショタには、凄さがわからないかぁ」
…また始まった。この戦い…きっと小さい頃からやっているのだろう。小さい頃のモモってどんな子だったのかな、きっと今と変わらず豪快で悪たれついて、笑太くんを挑発したりして…でもきっと笑顔の絶えない子だったんだろうな。まぁ、俺の想像だけどさ。
もっと知りたい。笑太くんやモモの家族が知らないモモを、知りたい。みんなの知らない部分はどこにあるんだろうか。これって、ワガママ…なのかな?なんて言うか…俺が知らないって言うのが、気に入らない?…悔しい、って感覚なのかな。なんだか、難しい感情が色々でてくる。これは一体なんなんだろうか、なんて言う名前の感情なんだろう。
昨日、ようやく「好き」と言う感情を、知った。ようやく…まだまだわからないことがたくさんあって、頭と心がバラバラで、着いて行けない。
「おい〜。喧嘩すんなって!ホラホラ。飯行くぞ!後でダブったやつやるから!機嫌直せよ、ショタ!」
「はぁ?要らないし!しかもダブったやつとかなお要らないわ!シークレット寄越せ!」
聖司も笑太くんも相変わらずなやり取り…しかし聖司は喧嘩の仲裁がうまい。カラッと空気を壊す天才かもしれない。
「ナオ!行こう!待たせてごめん」
と言って俺に1つガチャポンを押し付けた。開けてみると…あれ?草食恐竜?なんで肉食シリーズに草食恐竜なんだ?ふとモモを見ると
「それ、シークレットなんだ!アルゼンチノサウルス!世界最大の草食恐竜で、ティラノサウルスですら襲えなかったんだぜ?なんかナオに似てるだろ?大っきくて、優しそう!待たせたお詫び!」
ベンチに座ったままの俺と、目の前に立つモモ…こう見ると、モモは背が大きいなと、初めて思った…。いつもは俺が見下ろすかたちになってしまう。まだまだ知らない、色々な君を、俺に発見させて欲しい…そして、この湧き上がってくる、感情の名前を、教えて。
名前の解らない感情を心にしまい込んで、無邪気に笑うモモと、先に歩き出した2人の後を早足に追う。
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