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『解放の時』
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先程から止まぬ雨を
うちの中から眺めていた。
「緋色、おれ出かけんで。」
「あぁ。俺も少し仕事ペースあげなきゃだし
部屋に籠るから鍵掛けていってくれる?」
「りょ~」
再び視線を窓の外に向けた。
「思い出したよね……雨。」
それは
ショックではなく
どちらかと言えば
安堵に近かったかも知れない。
「俺はもう お前を縛ることは出来ない。」
長くに渡り
たったひとりの記憶をコントロールしていた。
その犠牲は大きかった。
能力を使うのが一瞬であれば
対して問題はない。
が、緋色の場合かれこれ何十年も能力を使いっぱなしだった。
吐血したこともあった。
でもそれは雨を守り抜いている証拠だと思って嬉しかった。
でも
あの日
式が雨に全てを話した日
あの子は泣いていた。
知らないことは幸せなんかじゃない。
辛いことを全て受け入れてなお、
それを一緒に受け入れてやることが
その人の本当の幸せなんだ。
そう、教えてくれたのは
かつての教え子だった
式だった。
_______________________________
「緋色、ちょっといい?」
「なに?学校はいいの?」
「ん、これから行く。」
式から緋色へ話かけることは滅多にない。
それでなくとも他人に心をなかなか開かない子だ。
小さい頃からあまり笑わない方だったし
雨以外にはめったに笑わない。
仲の悪い白葉に至っては会話すらしない。
「……雨のこと?」
「うん。緋色、教えて。
雨と緋色は
俺が出会うより前から
ずっと一緒だったんだね」
「……そうだよ。」
嘘をつく必要もない。
きっと、気づいたんだろう。
ある方法をとれば
いいことに。
「俺は雨が好きだよ。
すごく。
雨がいないと生きていけないくらい。
雨の過去も俺の過去も全て受け入れている。
雨も、全て受け入れてくれたから。
だけど緋色も好きだ。
だから、ちゃんと気づいてほしい。
緋色が守ってるのは雨?それとも
自分?
雨の幸せとか
そういうのを思ってじゃない。
ただ、雨が全てを思い出して
自分を受け入れてくれないことに
恐怖してるだけでしょ。」
「共鳴したんだね。」
「ごめん、雨からは読み取れなかったから
緋色に触れた時
見せてもらったよ。」
口数少ない彼の言葉は
何よりも緋色の胸に突き刺さった。
「俺が守りたいのは
俺と雨の世界だけ。
雪都も白葉も刹も
……お前も、要らないんだ。
雨が笑ってくれれば
雨が誰の手にも触れなければ
それだけで俺はいい。」
「……緋色。
何が雨にとって幸せなの?
知らないこと?
違うよ。
雨は雨の人生を
受け入れて
そして歩いていかないといけない。一緒に。
雨を守るということは
雨の人生を緋色が管理するのとは
違うんだ。」
真っ直ぐな瞳を向けられたのは
初めてかもしれない。
普段から
緋色に意見するものは誰一人としていなかった。
何かがすっと消えた気がした。
それは
緋色が引いていた見えない糸が
解放されたかのように消えたようだった。
「……まだ間に合うと思うかい。」
式が微笑み、うんと小さく囁いた
「ははっ、まさかお前に言われるなんてね。
いつか話すよ。
俺の過去も
雨とのことも。
聞いてくれるかい?」
「うん、いいよ。」
きっと
誰かに言って欲しかったのかもしれない。
自分は間違っていると
雨を解放してやれと
きっと……。
「雨に
嫌われるかな……」
零れ出たのは
緋色の本音。
_______________________
記憶を解放するのは
こんなにも軽い気持ちになるのか。
安堵からか
それとも……
緋色の頬には一筋の涙が零れていた。
「長く、ごめんね。」
一気に解放しては雨が壊れてしまう。
だから、
まずは雪都との、
彼らとの記憶を
返してあげた。
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