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『一つの決心』
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雪都さんの話は
想像以上に過酷なものだった。
暖かかった紅茶もすっかり温くなり、雪都さんは再度淹れ直そうとリビングへと向かった。
熱く淹れ直した
紅茶を僕に差し出してくれたので一礼すると
僕は質問を投げ掛けた。
「記憶を無くした後は、
どう生活してたんですか?」
「雨が記憶を無くして、
兼都は何も言わずに今まで通り接しました。彼は、これでよかったんだと
そう私に言いました。そうして新しい居場所が見つからぬまま、
しばらくたったある日、
雨が彼を連れてきた。」
「もしかして、緋色兄さん…?」
「ええ。どういう繋がりかは
わかりませんが。
そして、私に言いました。」
『雪都さん、俺
緋色の元で暮らしたいです。』
「レイが、自ら…家に?」
少し悲しげに瞳を伏せ
雪都さんは続けた。
「わたしは緋色という男を
あまりよく知りません。
しかし、雨が望むのなら、それでもいいと。それで、雨が今より安全に過ごせるなら、と。」
恐らくその時雪都さんは
我が子を手放す思いだったんだと、
安易に想像できた。
「雨が記憶を無くし数ヶ月の間、彼に何があったかはわかりません。
そして
私は雨に、混血鬼であることを話さず、特殊な吸血鬼だから襲われやすいとだけ話してます。
けれど、雨は混血鬼であることをを知っていた…兼都がそう言っていました。」
「レイに混血鬼であることを
話した者がいる…」
「私たちはそう思っています。
何もわからぬまま、あれから
大分時間がたってしまいましたが、
今日雨が貴方を連れてきてくれて良かった。
どうか、
雨に危険が及ばぬように側にいてああげて下さい。」
雪都さんは深々と頭を下げ
そして続けた。
「私たちは今でもここで零を待たなければなりません。
何も出来ない奴が、こんなお願いなどと厚かましいですが…」
「何故、今日初めてあった僕にこんな話を…」
「刹くんは、あの中でも一番雨に害を加えていない、そうでしょう?」
ぎくりとした。
僕たちが自分の欲望を満たすために
雨を吸血したり、性の対象にしていることがまるでお見通しのようだった。
「吸血していることを、咎めないのですか。」
「あの子が自分で提案したことなのですから、皆さんを咎めることはお門違いです。」
「知っていた、んですね。」
「雨のことはこれでも誰よりわかっているつもりです。
それに、雨が笑って暮らせているなら
私はそれでいい。今日雨を見てそう思いました。」
その時の雪都さんは
ただ一人の父親のように優しい
表情で微笑んでいたのだった。
そうして一時間半を過ぎた頃
二人が戻ってきてこの話は幕を閉じた。
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「そんで欲しいCDがないからって探し回って
やっと見つけたと思ったら肝心の茶葉忘れてたことに気づいてさ」
「ほんと雨と買い物はろくなことねぇな。」
「つぅか兼都がCDさがさなけりゃこんな時間かかんなかったっての。」
「ふふ、まぁ時間はかかりすぎましたが
ちゃんと買ってこれたので良しにしましょう。」
「なんか、ゆっくり話したかったのに全然雪都さんと話せなかった…」
「またいつでもいらっしゃい。」
「はい。また刹と来ます。」
「そうですね、刹くんならいつでも歓迎です。」
お土産にパンケーキをくれた雪都さんに礼をし、僕たちは家を出た。
「雪都さんと何か話した?」
「色々紅茶のこととか
教えてもらってた。」
「雪都さんの紅茶は別格だからな」
『刹くん、雨が私を雪都さんと呼ぶ限り
彼の記憶が戻っていないと確信しましたが、
彼が今日ここへ訪れることで
何かしら思い出すことがあるかもしれません。
今日ここへ訪れた理由も気になります。暫くは雨の側に……』
雪都さんの言いたいことはなんとなく予想がついた。
そしてもう一つわかったこともある。
恐らく雪都さんは
俺たちを
緋色兄さんを良くは思っていない。
レイに混血鬼と明かした人物が
緋色兄さんだと疑っているような気がした。
(僕に出来ることは…)
「刹くんてば聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。
紅茶がうまいってことでしょ。」
「は?そんな話とっくに終わってるし」
「あっそ。」
(雨を危険な目に合わせないこと。)
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